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卒業旅行/遊覧船

ホテルを出て少し歩き、昨日と同じバス停でバスを待つ。今日はちょっと長くバスに揺られて湖まで行く。 僕は周りにあまり人がいないのをいいことに周さんの手をそっと掴む。「どうした?」って顔をして、僕のことを覗き込む周さんに「また迷子になったら困りますからね」と言って、手の指を絡めてキュッと握った。 でも本当、いつもそばに居てくれる人が突然居なくなってしまった時の心細さで、あんなに不安になるなんて思わなかった。あんなのはもう二度とごめんだ。 バスが来ても何となく一度繋いだ手を離すことができずにそのままでいた。周さんも何も言わないから、別にいいのかな……? 男同士で手を繋いだり抱き合ったり、外でするのは相変わらず少し恥ずかしいけど、それでも前と比べたら気持ちが軽くなっている。だって好きな人と一緒にいて何が悪いの? 恋人同士、手を繋ぐくらい誰でもしてるよね? 男同士だからダメだなんて言われたくない。余計なお世話だ。 僕らはバスの一番後ろに並んで座る。 「竜太どうした? ずっと手繋ぎっぱなし珍しいな。俺はもうどこにも行かねえよ?」 僕の横に座った周さんがそう言って、手をニギニギとしながら僕の顔を見て笑った。 「はい、今日は手を繋いでたいんです……だめ?」 「いや、構わねえよ」 旅の恥はかき捨て……じゃないけど、誰も知らない僕らのことなんか気にしちゃいないんだし、この旅行では僕は好きなようにするんだ。 修斗さんはそんな僕を見て、真似して康介の手を握るけど、康介はブンブンとその手を振りほどき照れまくっている。しばらく二人は手繋ぎ攻防戦を繰り広げてたけど、すぐに飽きたのか、修斗さんは康介の肩にもたれて眠ってしまった。 しばらくバスに揺られて、目的地へ到着する。 お互いの頭をくっつけ合って爆睡している康介と修斗さんを起こし、慌てて僕らは下車した。 バスを降りたらもうすぐそこ。予め購入していた遊覧船のチケットを用意して、出航時間に間に合うように乗り場まで急いだ。 「見て! なんかネットで見たのと船、違くね?」 修斗さんが乗り場に停泊している船を指差す。 どうやらこの遊覧船は最近リニューアルしたらしく、少し豪華になっていた。 この遊覧船は一時間ほどかけて湖を一周する。僕らは途中で一旦下船してロープーウェイに乗り、山の上の展望レストランでお昼を食べる予定だ。手続きを済ませ、僕らは遊覧船に乗りこむ。春休み中ということもあり、やっぱり沢山の乗客で混み合っていた。 「デッキにも人がいっぱいだな……」 「ほんと、よかったよ。オーナーに感謝だな」 修斗さんと周さんがそう言って笑い合う。 宿泊しているホテルのオーナーが、気を利かせてこの遊覧船の特別船室のチケットを僕らに用意してくれていた。別料金を払えば豪華な船室に入れるらしく、僕らが遊覧船に乗ると知ったオーナーが、事前にチケットを用意してくれたらしい。一般の人が入れない特別展望台に行けたり、操舵室の見学も出来るらしくて今からとても楽しみ。 「特別展望台って一番上のところだろ? 康介! あれやろうぜ、あれ! いっちばん前でさ、俺が両手広げるから康介は後ろから……」 「やですよ……タイタニックごっこでしょ? そもそも修斗さん高いとこ怖いんじゃないですか?」 「はぁ? 怖くありませーん! 宙ぶらりんなのはダメだけど、こういうのは大丈夫なんです!……康介ムカちん! いいよもう! 竜太君にやってもらうから」 ……やだ、とんだとばっちり。 とりあえず、案内に従い特別船室に入った。 アンティーク調な室内がとても豪華で先程までいた一般の船室とはまた違ったゴージャス感。それに何より乗客が少ない。 「凄い贅沢! 部屋綺麗!……ねえ、周さん、早速操舵室見学行きましょ! ね!」 ゆったりした革張りのソファにどしんと腰かけて、まったりとしている周さんの手を取り僕は引っ張る。「後でな」と面倒くさそうに言う周さんがなかなか動いてくれないから、僕は康介に声をかけた。 「康介、一緒に操舵室見に行こっ」 そしたら慌てて周さんが立ち上がり、康介を押し退けて結局一緒に行ってくれた。

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