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卒業旅行/特別船室

周さんと操舵室の見学をしてから二人で船内を歩いた。先程船は出航し、動き始めた途端に康介と修斗さんも甲板に出ると言って行ってしまった。 「俺らも外に出てみるか」 周さんに言われて僕は頷く。今度は周さんの方から手を差し出してくれたので、嬉しくなって僕は繋いだ手をブンブンと振った。 階段を上がり船外へ出てみると、顔に当たる風が少し冷たい。イメージしていたよりも強風で、顔に纏わりつく髪を押さえながら僕は前方へ進んだ。 「結構寒いですね……あ、康介達だ」 先頭に二人の姿。並んで手摺に寄りかかるようにしてお喋りをしていた。周りにもちらほら他の乗客が見えるけど、あまり気にならない。 「おーい、こっちこっち。なあ、後ろ見てみ。凄い優越感」 修斗さんに言われ振り返って見ると、後方のデッキには凄い人…… 「え?……あっち凄いですね」 特別船室の乗客だけが入れる展望デッキは船の前方に、一般のデッキは後方。この展望デッキは僕らの他に数組のお客さんが乗ってるものの、殆ど貸切みたいな状態だった。 「さっきね、康介とタイタニックごっこしちゃった」 楽しそうに話す修斗さんとは対照的な康介。「バカじゃないの?」 と言ってまた怒ってる。 「後ろの客が見てるってさ、自意識過剰なんだよ。誰も見てやしないって。それにふざけてるだけだろ? いちいち気にしすぎ」 「だって恥ずかしいじゃないですか!別にいいんだけどさ、修斗さんが楽しそうなら俺は……」 しょっちゅう喧嘩をしてるけど、ほんと仲がいいよね。康介の反応見てるとこっちまで恥ずかしくなってくる。 「いつも康介と修斗さんはラブラブだね」 僕がそう言うと「はぁ?」と言って益々真っ赤になってしまい、堪らなくなったのか康介は修斗さんを引っ張って船内へ行ってしまった。 「周さん……」 二人になったから、周さんに後ろから抱きしめてもらおうと声をかけたら、周さんの方から僕の後ろに回ってくれて抱きしめてくれた。 「風が寒いだろ?」 そう言って、着ていた上着の前を広げて僕をそこへ入れてくれる。 「こうすれば俺も竜太もあったかい」 周さんの体温とドキドキが僕にも伝わる。僕がしてもらいたかったこと、まだ何にも言ってないのに全部周さんがやってくれた。 「ふふ……あったかい」 去年のクリスマスの時にね、丘の上の公園の展望台から夜景を眺めたんだ。その時、寒いからと言って周さんが着ていたコートの前を開けて、僕を入れて後ろから抱きしめてくれたのがとっても嬉しくてドキドキして、だからまたそれをやってもらいたかったんだ。 あ……別にタイタニックごっこがしたかったわけじゃないからね。 「本当はキスもしたいけど、さすがにそれはな」 コソッとそう言って、周さんは僕の頭のてっぺんにキスを落とした。 すぐ隣にいた女の人がチラチラとこちらを見ている気がして、少し恥ずかしくなってきたから僕らはまた船内に戻る。後は船室で康介達と過ごし、途中の港でロープーウェイに乗るために下船した。 「うわ……結構人がいっぱい。混んでるね」 修斗さんがうんざりした声を上げる。 船を降りロープーウェイの乗り場まで少し歩くんだけど、前方に見えてきた乗り場の入り口には沢山の人で賑わっていた。 「ねえねえ、ロープーウェイ混んでんじゃん、別に乗らなくてもよくね?」 「いや山の上の展望レストラン行くんだろ? 早く行って並ぶぞ」 修斗さんと周さんのやりとりを聞きながら、僕と康介がチケットを買いに行く。 「ああ、そう言えば修斗さん、きっとロープーウェイ嫌なんだよ」 何か思い出したように康介がそう言った。 「さっきからあの人はしゃぎすぎなんだって……これ乗ったら大人しくなるから丁度いいや」 康介がクスッと笑った。 あ、高いところが怖い、みたいな事、さっき言ってたっけ。でも大丈夫だとも言ってたような…… まあ、いいか。 僕はあまり気にせず、康介とみんなの分のチケットを手にして周さん達の方へ戻った。

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