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卒業旅行/山頂へ
ロープーウェイの乗り場はずっと階段を上ったところ。上まで行列になっているので最後尾に僕らは並んだ。
のろのろと列が進み、階段を上って行く。一台のゴンドラに結構な人数が乗り込むので意外に早く乗れそうだった。乗り場まで後少しのところで康介は喉が渇いたと言い出して、途中にあった自動販売機で買ってくると言って行ってしまった。
「なにもここで買いに行かなくても……」
僕が言うと修斗さんが笑った。
「康介ってこういうの我慢できないんだよね。ふふ……子供と同じ」
確かに。
食べたいもの、飲みたいものの欲に忠実。案外食い意地はってるんだよね、康介って。修斗さんにつられて僕も思わず笑ってしまった。
「前の一団が乗り込んだら俺ら次かな?」
「この位置だと、うーん……次の便ですねきっと」
前方の人たちが到着したゴンドラに続々と乗り込んで行く。ざっと見たところ、僕らの列までは乗れそうにない。きっと乗れるのは次の便だと思いのんびりしていると、意外に早く列は進んでいき、どうやらこの便に乗れそうな雰囲気。
「康介まだかな?」
修斗さんが振り返ると、急いで走ってくる康介の姿が見えたので安心した。
「はい、混み合ってますので早くご乗車ください!」
既に目の前の人たちも乗り込んで、係の人に背中を押される。康介を見るとすぐそこまで来ていたので、連れが来ると係の人に伝えて僕らは先に乗り込んだ。
「奥……ほら竜太こっち来い。窓から景色見えるぞ」
周さんがわざわざ僕を引き寄せてくれ、人混みの隙間を縫って窓際へと連れて行ってくれた。修斗さんはというと、康介を探してるのか不安そうな顔でキョロキョロとしている。
それにしても人がいっぱい。
人混みが苦手な僕はちょっとしんどい。
「めちゃくちゃ混んでるな。てかちびっこい奴は外が見れねえとつまんねえだろ」
乗車人数が多すぎて、ゴンドラの中央に乗ってると外の景色なんか楽しめない。ゴンドラの中には大人だけじゃなく、小さな子ども連れの客も多数いた。
「ほらお前も、こっち来い。そこだと面白くねえだろ」
突然周さんは背後にいた男の子を引っ張り、自分の前の場所を譲ってあげた。
「押されないように隣のお兄ちゃんにでもつかまっとけ」
周さんの言葉に、僕はその子の手を握る。後ろにいたお母さんらしき人にお礼を言われちょっと嬉しかった。
僕らを乗せたゴンドラはゆっくりと山頂目指して上っていく。
先程まで乗っていた遊覧船もあんなに小さく見える。天気もいいから景色も良く見え、凄く気持ちがよかった。
「周……康介乗ってない」
背後から修斗さんの小さな声が聞こえた。振り返り見てみると、周さんの後ろにピタッとしがみつき下を向いてる修斗さん。
「なんだよ、乗り遅れた? 俺らに早く乗れって言った係員に連れが来るって言ったよな? すぐ後ろにいんだから乗せてやってもいいのに……ま、次ので来んだろ」
「………… 」
なんか修斗さん、具合悪いのかな? 元気がない。人酔いしちゃったのかも……
「修斗さん、こっち来ます? 外眺めいいですよ」
僕は良かれと思って言ったんだけど、チラッと僕を見た修斗さんは首を振り「いい……」とだけ答え、周さんの背中に額をつけるようにして俯いてしまった。
「……?」
ちょっと周さんにくっつきすぎじゃない? って思ったけど、何だか修斗さんの様子がおかしいことのほうが気になってしまった。
「周さん、修斗さん……なんだか…… 」
様子がおかしくないですか? と聞こうと周さんに声をかけた瞬間、ゴンドラがグラっと小さく揺れ足元がフラつき、よろけてしまった。
「……え?」
山頂までまだしばらくありそうだけど、もしかして……今ゴンドラ止まった?
元々ゆっくりと動いていたゴンドラだから、動いてるのか止まってるのか認識するのに少し時間がかかった。
「周さん、これ止まっちゃいましたね」
「なんだよ信号か?」
いや、信号なんかないからね……
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