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卒業旅行/乗り遅れた康介は…
朝からテンション高めの修斗さん。
ちょっとイタズラが鬱陶しいけど、楽しそうな様子が可愛いのでどうってことない。
そう、いつものことだ──
遊覧船の展望デッキ。「タイタニック!」とうるさい修斗さんに渋々付き合い、両手を広げた修斗さんに後ろから寄り添い手を添えた。
何これ凄え恥ずかしい……
「チューしてもいいよ」
振り返り俺を見て笑う修斗さん。
風に吹かれた髪が俺の頬に触り、馴染みのある修斗さんの匂いが鼻をくすぐる。至近距離で見つめるキラキラとした瞳に吸い込まれそうになるのをグッと堪えた。
キスなんてしないから……したいけど!
修斗さんの意地悪!
遊覧船に乗った後はロープーウェイに乗って展望レストランに行く。
実は修斗さんは高いところが苦手だ。苦手と言っても、ジェットコースターとか高層マンションとかそういうのは平気そう。多分、狭くて不安定、宙ぶらりんに感じる状態での高いところがダメなんだと思う。去年一緒に乗った観覧車がそうだったようにね……
だからロープーウェイもきっと苦手なんじゃないかな? そう思って、俺は大人しくなってる修斗さんを想像してにやけていた。
だっていつも自信満々で俺の事を小馬鹿にして揶揄ってくる修斗さんがそんな風になってんのは可愛いだろ?
だから一緒にロープーウェイに乗るのが楽しみだったんだ。
「……え? 」
「あんた、友達に先に行かれちゃったね! いいよ、ほらここ並び」
置いてけぼりを食った俺を見て、すぐ後ろにいたおばちゃんが可哀想に思ってくれたのか、俺を列の前に入れてくれた。
「ごめんねぇ! この兄ちゃん可哀想に、乗り遅れちゃって友達に置いてかれてん! ここ、並ばせてやってなぁ!」
後ろに並ぶ他の客にも大きな声で俺の事をご丁寧に報告し、俺はペコペコと周りの客にも頭を下げるハメになった。まあ、割り込みさせてもらったのは感謝……なんだけど。
ちょっと飲み物を買いに行ってる間に、乗らなきゃいけないゴンドラは行ってしまった。いや、正確には目の前で扉を閉められたんだ。
クソムカつく、あの係員……
「兄ちゃん達は高校生? 今の子はスラッと背が高くてみんなモデルさんみたいでカッコいいねぇ。ほら、飴ちゃんあげるから元気出しぃな」
やけに馴れ馴れしく俺の腕をバンバンと叩きながら、楽しそうに話してくるオバちゃん達に押され気味。せっかく高所恐怖症な修斗さんが大人しくなると思ったのにこれじゃ修斗さんよりうるせえや……
あんなに沢山並んでるから、全然余裕で間に合うかと思ったのに目の前でドア閉まるし、あの係員、絶対人の話聞いてねえよ、ほんとムカつく! 連れがもう乗ってるからって言っても全然聞いてねえし。
イライラ悶々としながら俺はオバちゃんグループと一緒に次のゴンドラを待つことにした。
「ところであんた、名前は?」
唐突に聞かれ「康介……」と答える。
「康介君か! 康介君は彼女とかおるの? あんたモテそうだもんねえ」
「………… 」
「私の孫もね、今年高校生になったばかりなんだけどぜーんぜん! 野暮ったいのよ、いやんなっちゃう!」
「わかるわぁ! 康介君達みたいにもっとお洒落に気を使えばええのに」
「そうそう!」
なんだ、このノリ面倒臭ぇな……
もういいや、知らないオバちゃんだし適当に答えれば。そう思って恋人がいると答えたら、更に盛り上がってしまった。
う……ウザい。
恋人には優しくしろだとか可愛がれだとか、めちゃめちゃ余計なお世話な事を言ってくる。そんなの言われなくてもそうしてるし!
素直が一番って……わかってるよ! なんだよ言いたいこと勝手にバンバン言いやがって。
「………… 」
でも、俺は修斗さんよりは素直じゃない自信ある。
ダメだな。
こんなオバちゃん達にあれこれ言われて凹んでるようじゃ……
「なあなあ、ちょっとあれ見てみ。さっきのロープーウェイ止まってへん? さっきからあの位置から進んでない……」
一人のオバちゃんがそう言ったその時、アナウンスが流れた。
『只今電気系統のトラブルにより一時停車しております。すぐに復旧致しますので今しばらくお待ちください。ご迷惑おかけしております』
は?
すぐってどんだけだよ?
俺は早く修斗さんのとこ行きたいんだよ!
てか待てよ? あれ修斗さん乗ってるやつじゃん! ふざけんなよ!
「康介君、あれ乗らんでよかったなぁ。あ、でも友達乗ってるんか! 心配やね」
心配どころじゃねえよ、ダメじゃん修斗さんあんなの絶対無理だろ!
「ちょっと! オバちゃんうるさい、黙ってて!」
俺は慌ててポケットから携帯を取り出し修斗さんに電話した。
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