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卒業旅行/恐怖症
ゴンドラ内がざわつく……
元々ゆっくりと進んでいたけど明らかに今は動いていない。止まっている。小さな揺れだったけど、あの一瞬の揺れ以来全く前に進んでいなかった。
「ロープウェイってこういうもんなのか?」
周さんに聞かれたけど、僕も分からなかった。だってロープーウェイなんて乗ったの初めてだもん。
「……ん? おい、何だよ? 引っ張んなって!」
周さんが背後にいる修斗さんに向かって何か怒ってるみたいだけど、よく見ると修斗さん、凄く顔色が悪い。周さんの服を引っ張っている……というより、倒れないようにしがみついて踏ん張っている感じに見え、僕は焦った。
「周さん、修斗さん何か変!……修斗さん? 大丈夫?」
僕の声に周さんも修斗さんを振り返る。
「おい、どうした?」
「……ヤバい……ダメ……ヤバい」
俯いて膝からガクッと落ちる寸前に周さんが修斗さんの体を支える。そのまま庇うようにして抱き寄せ、修斗さんをゴンドラの端へ寄りかからせた。
「すみません! 具合悪いみたいなんで少しスペースあけてもらっていいっすか?」
周さんが他の乗客にそう言って、修斗さんが座れるように場所を確保すると、しんどかったら座れと促した。それでも修斗さんは小さく首を振り周さんにしがみつく。
修斗さん、足が震えてる……
周りの乗客は何かをするわけでもなく、ただ好奇な目で見てるだけで、ちょっと不愉快だった。周さんもそう思ったのか、修斗さんが周りから見えないように、抱きかかえるようにしてその視線から隠した。
修斗さん、やっぱり高い所が苦手だったのかな。
「……落ちる、ヤバい……ヤバい……」
周さんにしがみつき、ぶつぶつと何かを言ってる。
「あ? 落ちねえって、大丈夫だよ、すぐ動くから。お前ホント高いところダメだな。情けねえ」
修斗さんの頭をポンポンと撫でながら、そう言って周さんが笑った。
修斗さんにしてみたら笑い事じゃないと思うんだけど、相変わらずな周さんにがっかりした。でも周さんなりの励まし方なのかな? ちょっと疑問だけど……
「……康介、康介 」
「………… 」
顔面蒼白な修斗さんが周さんにしがみつきながら小さな声で康介を呼んでる。あんなに周さんにくっついてやきもち妬けちゃうくらいなのに、今回ばかりはそういう気にはならず、ただただ僕は修斗さんが心配だった。
早く動かないかな……
さっき足元に落とした修斗さんのバッグに気がつき、僕が拾い代わりに持つ。
「怖い……ヤバい……康介…… 」
目を固く閉じ、小さく呟いている修斗さんに、周さんは囁くように「大丈夫だから」と繰り返していた。
……?
あ!
「修斗さん! 電話! 電話鳴ってる! 取りますよ?」
ブルブルと修斗さんのバッグの中から小さな振動音がして、僕はその場から動けなくなっている修斗さんの代わりに電話を取った。
『修斗さん! 大丈夫? 生きてる? 俺だよ!』
電話口から飛び込んできた康介のあまりの大声に、ぼくは思わず携帯を耳から離した。
「康介? 僕! 竜太だから! 声おっきいよ! もう何で一緒に乗らないんだよ! 鈍臭いんだから!」
『あ? 竜? 修斗さんは? 何で竜が出んの? てか、鈍臭いって! は? 竜に言われたくねえんだけど!』
僕は康介に今の状態を説明して、そして修斗さんに携帯を手渡した。
「………… 」
修斗さん黙ったままだけど、大丈夫かな?
修斗さんは電話を耳に当ててるものの何も話さず小さく頷いているだけだった。
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