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卒業旅行/合流
康介の電話のおかげなのか、すっかり元気になった修斗さん。いつの間にかゴンドラも動き出していて、山頂はもう目の前だった。
「ごめん、心配かけたよね?……俺だめなんだよねこういうの。また恥ずかしいとこ見せちゃった……」
元気になったとはいえ、まだふらつくのかポールにしっかりと掴まって、体が固まっているようにも見える。
「あと少しですからね。僕、修斗さんの荷物持ってるから。康介も次の便で上がって来ますよね?」
でも、康介の電話だけでこんなに安心した顔を見せる修斗さん。康介のこと、本当に好きなんだろうな……ってわかって僕は何だか嬉しかった。
頂上に到着すると、とりあえず康介を待つためにレストランの前のベンチで休むことにした。外の空気と顔にあたる風がとても気持ちがいい。レストランはちょっとお昼時を過ぎたくらいだけどまだ混んでいて、周さんがウェイティングボードに名前を書いて来てくれた。
「まだしばらくかかるかな。待ち人数、六組だったよ」
周さんが戻ってくるのと同じに、前に見えるロープーウェイ乗り場にゴンドラが到着する。ぞろぞろと人が降りてきて、最後の方でようやく康介の姿が見えた。
「ん? 康介誰と喋ってんだ?」
不思議そうな周さんの声に僕も見ると、おばちゃん達数人が康介を囲むようにして歩いている。康介は何やらギャーギャー騒いでるけど、こちらには気がついてないみたい。
「康介ー! こっち……」
僕が声をかけるとやっと気が付いたのか、そのおばちゃん達を振り払い修斗さんに向かって真っ直ぐ走ってきた。
「修斗さん! 大丈夫? もう平気? 気持ち悪くない?」
ベンチに座る修斗さんの前にしゃがみ込み、抱きつく勢いで修斗さんの足をバンバンと叩いてる。
「はは……大丈夫だよ。ありがとな、心配してくれて……ってこの人達は?」
康介の後ろからおばちゃん四人組が顔を出す。
「あぁ、あんたが修斗さんか! もう康介君たら心配で心配で泣きそうになってん、もうおばちゃん達見てられんかったわ!」
四人揃って康介をバシバシ叩きながらゲラゲラと笑っている。
「………… 」
四人で口々に捲し立て、賑やかったらない。関係ない周りの人たちも振り返る有様……
「どんな可愛い彼女かと思ったら彼氏さんやん! さっき並んでる時女の子おらへんかったからアレ? って思ってたけど、彼氏やったんね。修斗さんもイケメンさんやね」
「………… 」
おばちゃん達の声の大きさと騒がしさに圧倒され思わず黙り込んでしまう。修斗さんも康介とセットでバシバシ叩かれ、二人して困惑した顔をしていてちょっと面白かった。
散々二人を冷やかした後に、皆んなに一個ずつ飴ちゃんを配っておばちゃん達は行ってしまった。
嵐のようだ……とはこういうことを言うんだね。
「凄かったね。康介めちゃめちゃ好かれてたね。ゴンドラの中でずっとあの人達と一緒だったの?」
脱力している康介に僕が聞くと、修斗さんのイタズラの方がよっぽどマシだったと盛大な溜息をつくから笑ってしまった。
そうこうしてるうちに順番が回ってきて、僕らはレストランに入った。
ちょうど窓際の席に案内されたので、景色を楽しみながら食事ができた。でも大開口の窓から見える景色は結構な絶景で、修斗さんは怖くないのかな? と心配だったけど、どうやら「山は落ちないから」ってよくわからない理由で、この展望席は大丈夫だったらしい。
まあ、隣には康介が座っているから、たとえ怖くても大丈夫だろうけどね。
展望レストランで食事も楽しみ、各々山頂のハイキングコースを散策してから下へと戻る。帰りのロープーウェイはちゃんと康介も一緒に乗り込んで、何事もなく僕らはホテルへと戻った。
昨晩は周さんがいなかったから寂しかったけど、今日は一緒。
「俺ら大浴場の方先に行くから、竜太君は周と一緒に部屋風呂入ったら?」
修斗さんがそう言ってくれて僕らは先に部屋の露天風呂をいただくことにした。
「じゃ、晩飯の頃には戻るから……」
康介も修斗さんと一緒に部屋から出て行く。
部屋に二人だけになった途端、周さんにギュッと抱きしめられた僕は少し背伸びをして軽くキスをした。
「竜太……さっさと風呂済ませてエッチしたい」
耳元で囁かれ、ゾクッとして思わず首を竦ませる。
「お風呂、ゆっくり入りましょ?」
「やだよ、早くしねえと戻ってくんじゃん。夜はあいつらいるからエッチできないだろ? まあ俺はあいつらいても構わないけどさ……」
いやいや、昨日の今日で何言ってるの?
「構わなくないです! 嫌ですよ、しませんからね! ……だって昨日いっぱいしたから……お尻、痛くなっちゃうもん」
別にお尻、大丈夫だけど嘘も方便。
だっていつ戻ってくるかもわからないのにまた昨日みたいになったらと思うと、とてもじゃないけど僕はそんな気分になれなかった。
ちょっと不貞腐れたような周さんだったけどすぐに大人しくなり、ほっとして二人で露天風呂に入った。
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