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かくれんぼ⑥

ふにっと、松田君の指が僕の唇に触れた。と言うより、下唇を摘んだ。 驚いて松田君を見上げる。 無表情で もにもにと指で唇の感触を楽しんでいるようだった。 「ま、松田君…」 声を発すると、彼の指に唇が触れて恥ずかしくて俯いてその指から逃げた。 「…大野の唇、柔らかいな」 甘い声だった。 それを否定するように首を振った。 声は出なかった。 恥ずかしくてたまらない。 「大野」 甘い声が降ってくる。 顔を上げる事なんてできない。 「大野」 な、なんで急にそんな甘い声で呼ぶの。 顔見れないし! 気づいたら掴んでいた松田君のシャツも慌てて離した。 「おーの」 「...な、なに?」 「顔、見せて」 「...や」 「大野」 甘さを増す声に、僕は首を振ることしかできない。 「大野」 松田君の大きな手が、僕の首の後ろに触れてゆっくりと撫でる。 「...あ」 ぞくっと背筋がひんやりする。 「大野、首細ぇな。折れそう」 確かに、松田君の男らしい大きな手は片手で充分に僕の首を捻れそうだ。 松田君の指が、そこを、ゆっくりと撫でる。 暖かい手は、何度か首を撫でると するっと前に回った。

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