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第9話
背を、先ほどとは別の力がレイレスを引き上げた。
一瞬だった。
「レイレス様!」
引き上げられたのは馬上だった。聞き覚えのある声。
「…シューフ…」
「暫しのご辛抱を!我らの隊が奴らの足止めをしているうちに、安全な場まで…!」
ポタリ、と頬に何か滴り落ちた。
震えの止まらぬ指で拭えば、それは血だった。
見上げれば、シューフの肩は真っ赤に染まっていた。手綱も、左手一つで手繰っている。
「シューフ、お前こそ怪我を…」
「失礼を!レイレス様、暫しお黙り下さいませ!」
「…すまない…」
蹄の音が、砂を蹴る音から徐々に変わり始めた頃だった。
輝りつく陽が、翳り始めた。
見れば、樹々が鬱蒼と茂る深林の中を、馬は駆けていた。
「これを抜ければ、…もうすぐの辛抱です」
シューフの声は枯れ始めていた。
馬の俊さも、劣り始めていた。
ここを抜ければ、何があるというのだ。
レイレスは朦朧とした意識に、目を射抜かれた姉姫を思い出していた。
「…あねうえ…」
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