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第12話
悪夢を見た。
まだ、その夢を引き摺っているように、身体のあちこちが痛む。痺れて、動かない。
瞼も重く、夜なのか朝はまだなのかさえ、わからない。
「姉…うえ…」
声さえ掠れて、喉が乾いていた。
助けなければ。
呼ばなければ。いつも傍らに仕える騎士を。
「ファー…ロ…い、るか…?」
喉が渇いた。
薄っすらと、微かな光が視野に差し込んだ。
同時に、嘲笑が込み上げた。
そうだ。
ここは、寝台の上ではない。
やがて、ぼやけていた焦点が定まった。
星々の河が見えた。
両端を不自然に、切り取られた星々の河。
あの空とも闇とも言えぬ処から、落ちたのだ。
身体をわずかに動かすと、痛みはあるが、両の手を見ることができた。
生きているのか。自分は。
信じられなかった。
痛みを覚悟して起き上がると、それほど痛みも怪我も無いことに驚く。
「ここは…?」
辺りを見渡すと、樹々の合間を縫うように小川が流れ、足元には柔らかな芝が茂っている。
空には、三日月が浮いていた。
「ギャ、ギャ、ギャア」
穏やかな夜の空間に、突然赤ん坊の鳴き声にも似た声が響いた。
見れば、月光に輝く漆黒の翼を広げ、巨大な鴉が横たわって叫びをあげていた。
「お前は…」
気を失う直前、短剣で斬った鴉だ。
「一緒に落ちてきたのか」
鳴き叫ぶそれに意思はあるのかわからないが、動くこともできないのだと察すると、レイレスはそれに近付いた。
足はレイレスのそれよりも太く、両の翼も成人した男の広げた両腕よりもあるように見えた。
ただ羽撃くだけなのは、レイレスが斬った翼の肩口に深手を負っている為のようだった。
その切り口から流れ出る、赤。
ゴクリ、とレイレスは何かを飲み込んだ。
喉が乾いている。
飢えにも似た喉の渇き。
その斬った傷口から滴る赤い液体。
黒い翼に滴る。
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