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第18話
革靴のまま、水に入った。
顔を水に浸し、乱雑に拭う。目を瞑れば、あの銀の髪が映るようだった。
ため息を一つ吐くと、髪を洗い流した。処々に指櫛が通らないのは、浴びた返り血が固まっているようだった。
旅の一行はどうなったのだろうか。
姉姫達は。
目に、一矢を受けたマイルレンス姉上。あのあと、馬車はどうなったのか。
なぜ、自分だけがここに、何事もなかったように時間を過ごしているのか。
「くそっ」
水面を、殴りつける。
頬を、飛沫が濡らしたが、痛みも、何もない。
無駄な足掻きだとは分かっているのだ。
だが、何としても、生きて帰ると、あの時賭けたのだ。深い谷底に落ちて、死ぬのか、否かを。
レイレスは辺りを見渡す。
水の音が静かに響く他に、何の気配もない。だが。
どうせ、見張りが何処かにいるのだろう。
「見張っているのなら、俺が行きたい所まで自由だということだな?」
レイレスは、居るのか、居ないのか、全く感知しないまま森の樹々へと告げた。
「好きにさせてもらう」
レイレスは、長い髪を絞り、結い直すと、小川伝いに歩き始めた。
何処へと言う、理由もなかったが、今は歩きたかった。
やがて、日も落ちる頃。
深い谷は、それだけ早く落日も早い。瞬く間に辺りは闇に飲まれた。
時折、背後を見ては、気配を探すが、本当に追いてきているのか、分からぬままだった。
どれほど歩いたのか、分からなかった。ただ水は流れ、同じような樹々が連なるばかりで、惑わされているような錯覚に陥る。
「誰か居るのか」
問えば、影が蠢いた。現れたのは、エィウルスだった。
「あんたか」
ため息を零すと、エィウルスは傍まで歩み寄ってきた。気配も、今度は足音まで確認できる。
「傷を、見せてみろ」
「胸を開けということか?」
「最初、女だと思ったが、そうだったのか」
「ぬかせ」
渋々と胸に巻かれた包帯を取る。
華奢な胸板が顕になり、レイレスは羞恥を感じていた。
顔を背けていると、不意に左胸をなぞり上げられた。
「な…っ、なにを…」
「この傷は、だいぶ癒えたな」
言われたまま見れば、あのバルという男に斬られた跡は、驚くほどの速さで癒えていた。
「お前、他に傷は?」
「傷?別にどこも痛みはないな」
「そうか」
ならいい。
そう言って、エィウルスはレイレスを引き寄せた。
「な…にあ…!」
胸の突起に、エィウルスが唇を寄せる。
舌で器用に薄紅のレイレスの胸をなぞっていく。
「あ…っ、そんな…」
拒否しなければ、そう思いながら、足の力が抜けていく。
膝が地面を打ちそうになると、エィウルスが軽々と抱き上げ、柔らかな芝の上に寝かされた。
唇が、首筋を上がり、藻掻くレイレスの唇を強引に塞いだ。
「…っ、ンぅっ…」
頭を振って、唇から逃れようとするが、その頭も、抱えられるように力が込められ、動けない。
「…や…め…、ん…」
体格差で、力量でも到底かなわない。
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