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第20話
長くしなやかな指が、レイレスの顎をなぞり、唇を撫でる。
「この唇…」
痛みを思い出したように、エィウルスは眉を寄せる。
「この耳…髪も」
指が耳を探り、髪を梳く。
「…?…な、に…?」
先程までの乱雑さは何処かに消えていた。
まるでどこかに消えていく幻を辿るように、エィウルスはレイレスに触れていた。
「知っている。俺は、お前を、…知っている」
梳いた髪を指に絡め取り、口付けた。
「この香りも、何もかも同じだ。なのに、なぜ、お前は…」
「…誰のことを言っているんだ?」
レイレスは堪え切れなくなり、問いかけた。
エィウルスは、僅かに目を見開き、レイレスの唇に己の唇を重ねた。
「…!」
歯列を割って入り込む舌が、レイレスの舌と絡み合う。不意に、咥内に甘い何かが広がった。
血だ。
そう理解した時には、レイレスはその甘さに溺れていた。
まだ馴れない、吸血。
目を開けば、銀の双眸が見下ろしている。
エィウルスは、身体を起こし、唇を離した。
「お前は…なぜ、俺の前に現れた?」
「…お、れ、は…」
目の前が眩む。
酔いが回った様に、身体に力が入らなかった。
「この瞳。お前は吸血なんだろう。なのになぜ、俺は狂うことが無いんだ?お前は再び俺の前に現れた。レグニス、違うのか?」
目前の男は、初めて、誰かの名を口にした。
だが、誰の名なのか、それが名なのかさえ、レイレスは認めることができなかった。
朦朧としていた。
「お、れ…」
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