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第21話
「そいつは、やはりあいつなのか。エィウルス」
闇の中に、声が上がった。
ディーグが、そこにいた。
レイレスを静かに見下ろし、眉を寄せた。
「確かに、見た目は酷く似てやがる。俺も、お前がそいつを連れてきた時、信じられなかった。何度も、我が目を疑ったよ。だが」
ディーグはレイレスの傍らに膝を着いた。
「あいつは、ちょっとばかり血を与えたぐらいで混迷するほどヤワじゃないはずだ。こいつ、本気で溺れてやがる」
「…あぁ」
「あいつは精通していたんだろう。あいつが子供を残していても不思議じゃない。だが、こいつの見た目の歳から考えても、それは不可能だ」
エィウルスは起き上がり、レイレスを抱き上げる。
「可能性は捨てきれないが、な。だがよ、エィウルス」
「何だ?」
レイレスを抱いて小屋に向かって歩き始めたエィウルスを、ディーグは呼び止める。
「お前がこいつに言った言葉、あれはお前の本心か?」
殺してくれ。
「…、あぁ」
「…そうか。だが、残念だったな」
「……」
「俺がそれを阻止する。絶対にだ」
じゃあな、そう言って、闇に消えていく。
足音も、気配も消えた事を確認して、エィウルスは、既に意識を失ったレイレスを見下ろした。
白い頬。長い睫毛が、時折震えている。
眠った顔など、見たこともなかったが、眠ればきっとこんな顔をしていたのかもしれない。
闇の中、今は朽ち落ちたはずのその姿を、エィウルスは腕の中に眠る姿に重ねた。
「…レグニス…」
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