24 / 61

第23話

 誰かが近付く気配を感知して、レイレスは目を覚ました。  眩しい視野に、銀の髪が映る。 「ん…ファー…ロ…?」  傍仕えの騎士の名を呼んだ。  名を呼ばれた当人は、何も言わず、此方を見下ろしているようだった。  ふと、唇を触れる指が、それが騎士のものでは無いことを知らしめた。 「…!」 「目が覚めたか」  起き上がれば、エィウルスがベッドの脇に膝を突き、見下ろしているところだった。 「あ…俺…」  そういえば、血を飲まされて、それ以降の記憶がない。  思い出そうにも、記憶に靄がかかったようで思い出せなかった。 「昨日の夜…あんたは、俺を…」 「安心しろ。何もしていない。血を与えたら、お前は勝手に寝てしまっただけだ」  何もしてない、という言葉がレイレスの記憶を手繰り寄せた。  拒むならば、殺してくれ。  前後して告げられた言葉を思い出し、思わず胸元を、探る。  包帯が、昨晩のまま胸を包んでいる。  レイレスはエィウルスを見た。 「昨日の…言葉は…なんだって、あんなことを…?」 「抱かれなかった事が悔やまれる、のか?」  薄っすらと微笑を浮かべたエィウルスの言葉に、レイレスは頬を染めた。 「違う!断じて違う…!」  必死に否定したレイレスは、からかわれていることに直後気付いた。  微笑を浮かべるエィウルスは、どこか楽しんでいる、そう見えた。 「……あんた、笑うんだな」  仲間の中にいても、どこか思い詰めた、そんな印象だった。  群れを追われた狼。  そんな姿が重なって見えていた。  レイレスの言葉を聞くなり、エィウルスの表情から笑みが消える。  その銀の瞳にまっすぐに見つめられ、レイレスは身動いだ。 「…?」  エィウルスは、再びレイレスの唇に手を伸ばした。 「…っ」  そっと唇に触れるエィウルスの仕草が、まるで女を扱う様に柔らかな為に、レイレスは居た堪れなくなった。 「…や、めろ…」  頬が、耳が紅に染まっている事がありありと分かり、レイレスは首を振ってその指を振り払った。 「俺は、女じゃない…!」  言った自分の言葉に、羞恥を感じ、レイレスは唇をきつく噛む。  エィウルスは振り払われてなお、レイレスの顎を掴んだ。 「!嫌だ…っ」  再び振り払おうと首を振るが、更に現れた片手に耳元を包まれた。  強く、その胸に引き寄せられる。 「!…やめ…」 「俺はお前を女だと思ったことはない」  唇が触れるか触れないかの距離で、エイウルスは押し殺した声で告げた.。

ともだちにシェアしよう!