29 / 61
第28話
「おい、聞かなかったのか?炎は…」
振り向きざま言いかけたところで、エィウルスの胸にぶつかった。
「…っ、おい」
顔を上げれば、その長い手指が頬に伸びてくる。
はっと見たときには銀の双眸が間近に見えていた。
「…っ、ん…っ」
逃げる隙もなく、唇は深く合わされていた。
頬を包む手を掻くように掴むと、歯列を割ってエィウルスの舌がレイレスの咥内に滑り込んだ。
「…っ、んっ、ぅ…」
同時に、甘く熱いものが口の中に溢れた。
堪らず、レイレスは音を鳴らして飲み込む。その嚥下した反動で息に詰まり、レイレスは溺れるようにエィウルスから唇を離した。
「…ん、…ぁ…!」
苦しさから、その胸を押し返すが、びくともしない。
逆に胸の中に囚われるように抱き竦められ、その首元に喘いだ。
咳き込んだレイレスの背を、エィウルスが撫でるように包む。
身を預けたまま、己の荒れた吐息を感じる頃、間近に見えた肌の色が他とは異なることにレイレスは気付いた。
「…?」
刺青だろうか。
常にその首元は、いつも布が巻かれ、隠されていた。
「…そこに、刺青が見えるだろう」
「!」
エィウルスの言葉に、レイレスは身を揺らした。
同時に自由になった身体を離すと、エィウルスは襟に巻いた布を取り去った。
青白く、夜に染められたエイウルスの首に浮かぶ文様。
獣と、月のように見えた。
ともだちにシェアしよう!