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第28話

「おい、聞かなかったのか?炎は…」  振り向きざま言いかけたところで、エィウルスの胸にぶつかった。 「…っ、おい」  顔を上げれば、その長い手指が頬に伸びてくる。  はっと見たときには銀の双眸が間近に見えていた。 「…っ、ん…っ」    逃げる隙もなく、唇は深く合わされていた。  頬を包む手を掻くように掴むと、歯列を割ってエィウルスの舌がレイレスの咥内に滑り込んだ。 「…っ、んっ、ぅ…」  同時に、甘く熱いものが口の中に溢れた。  堪らず、レイレスは音を鳴らして飲み込む。その嚥下した反動で息に詰まり、レイレスは溺れるようにエィウルスから唇を離した。 「…ん、…ぁ…!」  苦しさから、その胸を押し返すが、びくともしない。  逆に胸の中に囚われるように抱き竦められ、その首元に喘いだ。  咳き込んだレイレスの背を、エィウルスが撫でるように包む。  身を預けたまま、己の荒れた吐息を感じる頃、間近に見えた肌の色が他とは異なることにレイレスは気付いた。 「…?」  刺青だろうか。  常にその首元は、いつも布が巻かれ、隠されていた。 「…そこに、刺青が見えるだろう」 「!」  エィウルスの言葉に、レイレスは身を揺らした。   同時に自由になった身体を離すと、エィウルスは襟に巻いた布を取り去った。  青白く、夜に染められたエイウルスの首に浮かぶ文様。  獣と、月のように見えた。

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