35 / 61
第34話
レイレスは譫言のようにその名を呼んだ。
エィウルスは、レイレスの頬に唇を寄せる。レイレスは、その時ようやく己が泣いていることに気付いた。
エィウルスの咥内から放された指をその首に回すと、そのままレイレスは引き寄せた。
小さな唇を差し出せば、エィウルスはそのまま深く口付ける。舌を絡ませ、そのままレイレスはきつく吸い上げた。
僅かに離れた唇の隙間で、レイレスが呻く。
「…っ、…も、っと……」
何がほしいのか、レイレスは分からないまま口にしていた。だが、エィウルスはその答えを知るように唇を差し出した。
「…ん…ぅ…」
貪るように咥内を蹂躙するその舌から、甘いものが溢れた。
レイレスは奪うように吸い上げる。
エィウルスが髪を梳くように指に絡ませ、その頭を抱えた。
口付けたまま荒れた息を上げる。
レイレスは、足をエィウルスの腰に足を絡ませ、仰け反った。
「…っ…!!」
痛みよりも、唇から溢れるその甘さをレイレスは追っていた。
何がそうさせるのか、理由などよりも、レイレスは貪った。
肌が重なる音が響く。
「…っあ…」
己の声が濡れたものであることに驚く。
痛み中で、一体どこから出るのか、不思議に思った。
「レイレス」
エィウルスが息の上がった声音で名を囁く。
吐息が耳朶を撫で、レイレスはその肩を揺らした。
身体の中心で、何かが疼く。
「レイレス、お前は…」
レイレスは、その囁きの先を、首を振って拒む。
唇を再び奪うように重ね、レイレスはその唇を噛んだ。
「…エィウルス、…違う」
金に輝く双眸から、滴が伝って落ちていく。
違う。
その誰かではない。
俺の知らない、誰かでは、無い。
「俺の名を呼んでくれ…エィウルス」
髪を絡み寄せ、エィウルスはレイレスをきつく抱き寄せる。
「俺に、もっとお前を刻みつけて…」
目を開けば、己の細腕と、逞しく引き締まった腕が絡まり、視野に映る。
もう、離れることなど、できない。
殺してくれと乞うこの腕の中に。
堕ちていく。
「エィウルス…」
唇を重ねれば、甘さも、快楽も、それはレイレスの中に混じり込んでいく。
夜は、一刻一刻と朝に近付いていく。
夜が明ければ、その刻は近づく。
だが。
許されるならば、お前のその腕に。
ともだちにシェアしよう!