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第34話

 レイレスは譫言のようにその名を呼んだ。  エィウルスは、レイレスの頬に唇を寄せる。レイレスは、その時ようやく己が泣いていることに気付いた。  エィウルスの咥内から放された指をその首に回すと、そのままレイレスは引き寄せた。  小さな唇を差し出せば、エィウルスはそのまま深く口付ける。舌を絡ませ、そのままレイレスはきつく吸い上げた。  僅かに離れた唇の隙間で、レイレスが呻く。 「…っ、…も、っと……」  何がほしいのか、レイレスは分からないまま口にしていた。だが、エィウルスはその答えを知るように唇を差し出した。 「…ん…ぅ…」    貪るように咥内を蹂躙するその舌から、甘いものが溢れた。  レイレスは奪うように吸い上げる。  エィウルスが髪を梳くように指に絡ませ、その頭を抱えた。  口付けたまま荒れた息を上げる。  レイレスは、足をエィウルスの腰に足を絡ませ、仰け反った。 「…っ…!!」  痛みよりも、唇から溢れるその甘さをレイレスは追っていた。  何がそうさせるのか、理由などよりも、レイレスは貪った。     肌が重なる音が響く。 「…っあ…」  己の声が濡れたものであることに驚く。   痛み中で、一体どこから出るのか、不思議に思った。 「レイレス」  エィウルスが息の上がった声音で名を囁く。  吐息が耳朶を撫で、レイレスはその肩を揺らした。  身体の中心で、何かが疼く。  「レイレス、お前は…」  レイレスは、その囁きの先を、首を振って拒む。  唇を再び奪うように重ね、レイレスはその唇を噛んだ。 「…エィウルス、…違う」  金に輝く双眸から、滴が伝って落ちていく。  違う。  その誰かではない。  俺の知らない、誰かでは、無い。 「俺の名を呼んでくれ…エィウルス」  髪を絡み寄せ、エィウルスはレイレスをきつく抱き寄せる。 「俺に、もっとお前を刻みつけて…」  目を開けば、己の細腕と、逞しく引き締まった腕が絡まり、視野に映る。  もう、離れることなど、できない。  殺してくれと乞うこの腕の中に。  堕ちていく。 「エィウルス…」  唇を重ねれば、甘さも、快楽も、それはレイレスの中に混じり込んでいく。   夜は、一刻一刻と朝に近付いていく。  夜が明ければ、その刻は近づく。  だが。   許されるならば、お前のその腕に。

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