40 / 61
第39話
「ちッ、この駄犬が…!」
言い様、剣を振り下ろす。
音も無く、獣は地に足を付け、飛び退く。
ディーグは、その背にレイレスを隠すと、闇に向かって叫んだ。
「逃すな!」
レイレスは、闇が蠢くのを見た。
同時に閃光と、赤い飛沫が上がった。
獣が、悲鳴を上げる。
「…いつになっても、同族殺しは嫌なもんだな…」
ディーグが、地に伏した獣の元へ歩み寄る。
獣は唸りを上げ、赤い瞳をディーグに向けた。
その周りには、剣を携えた男達が取り囲んでいた。
「おい、ウルボス。聞こえるか」
低い声音で、ディーグは獣に告げた。
「これから貴様を殺す。これは、お前が悪い。…恨むなよ」
目を凝らしたレイレスの目の前で、ディーグは剣を振り翳した。
音も無く、獣の首が落ちる。
首を失った獣の身体が、血を噴いて倒れる。
その様を、レイレスは息を飲んで見ていた。
レイレスに背を向けたままのディーグは、一言だけ発した。
「…あの世であいつに、恨みごとでも吐くんだな」
その背は、泣くように、昏かった。
ともだちにシェアしよう!