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第39話

「ちッ、この駄犬が…!」  言い様、剣を振り下ろす。  音も無く、獣は地に足を付け、飛び退く。  ディーグは、その背にレイレスを隠すと、闇に向かって叫んだ。 「逃すな!」  レイレスは、闇が蠢くのを見た。  同時に閃光と、赤い飛沫が上がった。  獣が、悲鳴を上げる。 「…いつになっても、同族殺しは嫌なもんだな…」  ディーグが、地に伏した獣の元へ歩み寄る。  獣は唸りを上げ、赤い瞳をディーグに向けた。  その周りには、剣を携えた男達が取り囲んでいた。  「おい、ウルボス。聞こえるか」  低い声音で、ディーグは獣に告げた。 「これから貴様を殺す。これは、お前が悪い。…恨むなよ」  目を凝らしたレイレスの目の前で、ディーグは剣を振り翳した。  音も無く、獣の首が落ちる。    首を失った獣の身体が、血を噴いて倒れる。  その様を、レイレスは息を飲んで見ていた。  レイレスに背を向けたままのディーグは、一言だけ発した。 「…あの世であいつに、恨みごとでも吐くんだな」  その背は、泣くように、昏かった。

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