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第40話
「ディーグ」
レイレスよりも先にその背に声を掛けたのはエィウルスだった。
闇の中から、その姿が現れる。
「遅えよ、エィウルス。見せ場は終わったぜ」
笑うその目は、レイレスを見る。
「お前のものになったんなら、ちゃんとお守りしろ。虫が付くだろ。…ガキ、お前はもう寝ろ」
エィウルスの胸を拳で軽く突くと、手を振り、男達の中へ消えていく。
「明日は早い。夜明けには出立だ」
闇の中に声が響く。そう言い残すと、ディーグの姿は消えた。
「エィウルス…?」
闇を見続けるその背を呼べば、すぐさまこちらに振り返った。
「怪我は無いか」
頬を、長い指が撫でる。
「ああ。俺は、大丈夫だ。…何も」
「何を、話していた?」
「…わけの分からないことを、一方的に」
答えると、その銀の瞳は覗き込む様に見つめていた。
「…そうか」
息を吐くように一言だけ短く答えると、エィウルスはレイレスの身体を引き寄せる。
「…ん」
唇を合わせながら背をなぞられ、レイレスはエィウルスの腕の中に戻った。
目を閉じれば、まだ、血の香りが漂っていた。
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