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第41話

 出立の頃合いになったにも関わらず、ディーグの姿は無かった。  男達は何も言わずに待つ姿勢のまま、刻は過ぎた。    レイレスは辺りを見渡す。  微かに、木々の間で何者かが光を返すのを見た。  ディーグが地に剣を突き刺すところだった。  何も言わずに背後から見ていると、ディーグは振り返りもせず、静かに溜息をついた。   「こいつ…、…ウルボスは、俺と同じ村の出だった」  足元には、盛られた土と、剣が、突き刺さっている。 「レグニスに拾われてからは、どちらが強いか、常に戦ってきた。兄弟みたいなもんだったよ」 「ディーグ、昨晩の、あの獣は」  あれは、男が変化したものだったのか。  獣へと変わる人間。 「ああ、二つの心臓って言ってな。古い血の成せる業さ」  手には、どこからか集めたのか、野の花らしき花束が握られていた。花を握ったまま、ディーグは己の首筋を叩く。 「ちょっとわけありでね。二つ目の心臓を止めるか、首を落とす以外に、死ぬ方法が無い。厄介なのか、はたまた不幸なのか、どっちだろうな」 「首…?」  エィウルスの首に彫られた刺青。  ディーグも、その首周りを布で覆っている。 「まだ、他にも…?」  ディーグが、振り返る。  濃い青の瞳が、光の加減か輝いて見えた。 「どう思う。お前の目に、俺たちはどう映る」 「…なに?」 「人か、化物か、少なくとも、神の姿ではないだろう」  瞬くディーグの視線が、不意に厳しいものへと変わる。 「血に飢えた、ただの獣さ」  そう言って、花束を盛られた土の傍にそっと手向ける。 「…馬鹿野郎…」  呟き、過ぎ去り様ディーグは、レイレスの顔を見ることもなく、歩み去っていく。  残されたレイレスは、盛り土の傍らに残された剣を見た。  獅子が彫られた、青い石の施された剣は陽の光を浴び鈍く輝いている。 「……」  この様な彫刻を、自分はどこかで見たような気がした。  だが、どこで何を見たのか、思い出せない。

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