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第42話
男たちは、黙々と、何も語ること無く進んだ。
レイレスは、時折切り立った崖を見上げた。
気のせいか、徐々に、断崖は低くなっているように見えた。
「なあ、お前、吸血だろ」
唐突にディーグが、レイレスに向かって口を開いた。
「なんだ。それがどうした?」
「『神の裁き』って、どういう意味なのか、知っているのか、と、思ってね」
ディーグの言葉に、レイレスは、傍仕えの騎士の言葉を、思い出していた。
------かつて、我々と同じ血を分かつ人は、神の怒りを受け、その生命に限りを受けた。
その言葉は、どんな意味があるのか、レイレスは幾度も考えたが、答えは出なかった。
「…さあ、俺にも分からない」
「は?知らねえの」
「お前に言ったところで、分からないという話さ」
「…てめえ、喧嘩売ってんのか」
青筋を立てたディーグに、周囲の男が笑った。
「まあ、昔話はよくわからないものだよな」
頷く男たちの上空を、烏が旋回するのを、誰一人気付く者は居なかった。
やがて、断崖が見えぬ、一層森が深くなった頃。
「見ろよ。神の力の限界地点だぜ」
ディーグの指が指し示す先には、見覚えのある砂漠が広がっていた。
「まだ、此処から先には出ない。誰からも丸見えになっちまう。本来ならまっすぐ抜ければ吸血共の領地だろうが、ここは、迂回させてもらう」
「この森を抜けるのか」
「そうだ。面倒な奴らがいるかもしれない。悪いな」
レイレスは、ディーグの顔を見た。
「面倒な…?」
頷き、それ以上、ディーグは何も語ろうとはしなかった。
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