43 / 61

第42話

男たちは、黙々と、何も語ること無く進んだ。  レイレスは、時折切り立った崖を見上げた。  気のせいか、徐々に、断崖は低くなっているように見えた。    「なあ、お前、吸血だろ」  唐突にディーグが、レイレスに向かって口を開いた。 「なんだ。それがどうした?」 「『神の裁き』って、どういう意味なのか、知っているのか、と、思ってね」  ディーグの言葉に、レイレスは、傍仕えの騎士の言葉を、思い出していた。  ------かつて、我々と同じ血を分かつ人は、神の怒りを受け、その生命に限りを受けた。  その言葉は、どんな意味があるのか、レイレスは幾度も考えたが、答えは出なかった。 「…さあ、俺にも分からない」 「は?知らねえの」 「お前に言ったところで、分からないという話さ」 「…てめえ、喧嘩売ってんのか」  青筋を立てたディーグに、周囲の男が笑った。 「まあ、昔話はよくわからないものだよな」  頷く男たちの上空を、烏が旋回するのを、誰一人気付く者は居なかった。    やがて、断崖が見えぬ、一層森が深くなった頃。 「見ろよ。神の力の限界地点だぜ」  ディーグの指が指し示す先には、見覚えのある砂漠が広がっていた。 「まだ、此処から先には出ない。誰からも丸見えになっちまう。本来ならまっすぐ抜ければ吸血共の領地だろうが、ここは、迂回させてもらう」 「この森を抜けるのか」 「そうだ。面倒な奴らがいるかもしれない。悪いな」  レイレスは、ディーグの顔を見た。 「面倒な…?」  頷き、それ以上、ディーグは何も語ろうとはしなかった。

ともだちにシェアしよう!