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第43話
レイレスは、砂漠を横目に歩いた。
蜃気楼の立つ砂漠は、時折人が歩くように見えた。
幻である事はわかっている。
だが、打ち捨てられた家臣たちを思い出せば、拾って弔ってやることが出来ると、脳裏にあの惨状が蘇ってしまう。
首のない遺骸が、今もあのまま広がっているのか。
首を振って、前を向いたレイレスの視野に、何かが映った。
「…?」
見れば、蜃気楼の様に、人影が揺らめいている。
それは、次第に数を増やしていく。
列を成し、確かな人がたへと変わった。
「おい…、ディーグ、あれは…?」
声を上げたのと、ディーグが舌打つのは同時だった。
着衣の殆どを汚したその姿は、ふらふらと力無く歩いていた。
その両の手と足には、手枷と、足枷。
生き残った者たちだろうか、皆鎖に繋がれていた。
レイレスは、姉姫を探した。
だが、そこには男ばかりで、女の姿は無かった。
生き延びたのか。
それとも。
どちらにしろ、助けなければ。
だが、どうやって。
レイレスは、ディーグを見た。
ディーグは、更に険しい表情を見せていた。
「ディーグ…?」
何か、分の悪い事があったのか。
吸血である者たちが捕らえられていると、何か、まずいのか。
「エィウルス」
不意にレイレスの背後に付いていたエィウルスへと、ディーグは声を上げた。
「…これがどういうことか、わかっているな?」
その表情は、今迄に見た中で最悪を示していた。
何事かと分からぬレイレスは問われたエィウルスを見る。
「…ああ」
低く、静かに、エィウルスは答えた。
周りの男達を見れば、剣を引き抜こうとする者が居た。
「ディーグ?」
呼べば、その青い目がレイレスを見る。
そして一言、告げる。
「最悪だ」
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