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第52話

「血に飢えた、お前に」  弧を描く小さな唇が、囁く。 「俺の絶望がわかるか、エィウルス」  裸の首に、その手をかける。辿るのは肌の色。 「お前ならば、分かるはずだ。…あの時出来なかったことを、今度はお前がやるんだ。お前の手で…」    俺を、殺せ。  重い音を立て、鍵が落ちる。  レイレスが唇を放したのはその瞬間だった。   「…俺を」  殺して。  囁くレイレスが闇に消える。  足音もなく、それは白い野ウサギが逃げ出す様に見えた。

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