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第54話
剣を下段に構え、レイレスは息を殺した。
この剣を手放さなかったのは、決着を付けるためであり、それがどちらか、または双方の最期になるかもしれない事はわかっていた。
木々を抜け、下草を踏み駆ける音が、微かに耳に触れる。
「お前を待っていた。…エィウルス」
その足音は、まっすぐに己へと向いている。
微かなそれは、鼓膜を振動させ、やがて確かなものへと変わった。
レイレスは、剣を振りかざした。
目前に、銀の光が奔った。
剣は、その胸を貫くこと無く、握っていた手の中から飛び出していった。
下草に、強かに頭を打ち、レイレスは目眩を覚えた。
頬に、獣の荒れた吐息が掛かる。
「…エィウルス」
間近に見える青い瞳は、あの剣に施された青石に酷似している。
剣は、見れば手が届くだろう処に落ちていた。
手を伸ばし、指を伸ばせば、獣の口が喉元に大きく宛てがわれた。
「…ッ、ぁ…」
牙は、肌を傷つけること無く、だが、深く押しつけられていた。
柔らかな銀の毛並みをレイレスは触れる。
牙が、レイレスの首筋を甘く噛む。
僅かに動けば、エィウルスはその口を閉じ、レイレスの肌に紅い噛み跡を残した。
鋭い歯牙を感じながら、レイレスは胸を開く。
白く滑らかな肌に浮かび上がる刺青を、エィウルスはその爪で掻き、爪を立てた。
「…あ…ッ…」
ぷつりと紅の滴が肌に浮かび、レイレスは声を上げる。レイレスはその白い胸を押さえつけるエィウルスの上腕にしがみついた。
「…っ、エィウルス…、もっと…っ」
俺に、刻んで。
囁くと、下肢を包む衣服へとレイレスは指を伸ばす。
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