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しまぱん2

「ルーティア、パンツ、しまぱんだったんだよ」 「……え……そ、そうなんだ……」 「しまぱんってさ……」 「う、うん……」 「男のロマンだよなー」 「…………」  なんて反応すればいいか分からない。  しまぱんは……  ……いや、しまぱんはしまぱんだし。……あまりコメントしたくない。恥ずかしい。  でも江田君はなんか楽しそうだ。 「ちょっと俺の部屋きてよ。パンツ見がてら、エメクエのラスダンのわかんないとこ教えてほしい……って、あ、エメクエ、全クリした?」 「う、うん」  うなずいてから、僕は急いでつけたした。 「今のうんは、パンツのほうじゃなくて、全クリのほうだから」  江田君はハトが豆鉄砲を食らったような顔をして、三秒後ぐらいに吹き出した。  アハハハ、とおかしくてたまらないというふうに、お腹を抱えて笑う。……僕はそんなにおかしいことを言った覚えはないのに。  なんだか江田君って……  ちょっと、変だ。  ……こんな人だったっけ?  教室にいるときは、普通にみんなと世間話か何かで盛り上がってるのを見る。少なくとも、しまぱんとか、口にするような感じじゃない。  ……江田君、なんか悪いものでも食べたんじゃない……? 「渡辺って面白いなー。やっぱ俺が思ってたとおりだった」  思ってた通りって……。  ……どういうこと……? 「……。ま、いいや。俺の部屋行こう。あっちの部屋のほうがゲームとかあるし、漫画もあるし」  疑問を込めて江田君を見たのに、江田君はさっさとソファから立ち上がった。  さっきの少しの間、あれ絶対にこちらの視線の意味に気づいたはずなのに。  ……はぐらかされてしまったみたいだ。  僕は、グラスのお茶を一口飲んで、テーブルに置いた。  ひざに置いていた鞄を抱えて、立ち上がる。 「あ」  ふと、江田君が僕を振り返った。  何、と表情だけで聞き返すと、江田君は少し困ったように頭をかいた。 「あのさあ……。すごく言いにくいんだけど……」  な、なんだろう。  僕は少し緊張して、つばを飲んだ。 「渡辺が口堅いと信用して、言うんだけどさ。……俺の部屋、すごいんだ」 「……すごい? ……散らかってるってこと?」  それなら、僕の部屋も負けず劣らずすごいから問題ない。  そうフォローしようとしたら、江田君が真剣な面持ちで、深刻そうに言った。 「いや……エロ本とエロゲとエロビがさ……よく見えるところにバーンと……」 「え……」  江田君は、クッソ!といいながら、自分の額を何度も叩いた。 「渡辺来るんだったら掃除しとくべきだった! クッソ! クッソ! 後からする後悔!」 「え……えっと……、い、いいんじゃ……ないかな……。あの、おでこ赤くなってるから、それやめたほうが……」 「……俺のこと、ドスケベだと思っただろ?」  ……そんな不安げな顔で聞かれても。 「その顔は軽蔑してる顔だな! 今すごい伝わってきた!」 「ええっ!? そ、そんなことない! 違う違う! お、男だったら、仕方ないよ、仕方ない! 普通! 僕も男だから、そんなの気にしないし……!」 「え……今、なんて?」  意外な言葉を聞いた、という顔をされた。 「え」 「え」  聞き返して聞き返されて。  二人して何をしてるのか分からない。  僕はなんだか恥ずかしくなって、両手で眼鏡のフレームを包み込むみたいにした。  うう、なんで僕が照れないといけないんだろう……。  別に何もおかしいこと言ってない……言ってないよね……? 言ってないはず……。 「だ、だから、僕も男だし、そんなの気にしないから……いいんじゃないって……」  これは本当だ。  僕も一応男だし、そういう方面に嫌悪感を抱くということはない。興味津々というわけでもないけど。  それにしても、江田君があらかじめ予防線はりたいほどのエッチなものってどれぐらいあるんだろう……。  江田君は、意外そうな顔のまま、僕の顔を見ている。  江田君、本当、何か変なものでも食べたんじゃあ……。 「渡辺が男っていうと、なんか変……」 「は……、え……?」 「もう一回、自分のこと男だって言ってみてくれない?」 「え……。あの、僕……男だけど……。江田君、本当……大丈夫……?」 「渡辺が男だっていうのは知ってるよ。あ……うん? うん、大丈夫。ちょっと頭おかしいだけ」  江田君はこめかみのあたりを手のひらでガンガン殴っている。  自分を正気づかせようとしているんだろうか……。  ……本当、江田君……大丈夫……だよね……?  ちょっと不安になってきた。  もしかすると、この人、僕は江田君と思ってるけど、本当は全然違う別人なんじゃないだろうか……。 「……渡辺さあ……」  江田君は自分の頭を殴るのをやめて、ちょっと眉を寄せて僕を見た。 「う、うん、何?」 「……もしかすると、エッチな本とか渡辺も読むの?」 「………………………………」  抱えていた鞄を下に落してしまった。  ちょ、直球すぎる……。 「男だから普通って言ったじゃん。じゃあ、渡辺もそういうの読んだり見たりしてるの」 「え、あ、え、そ、…そんなこと聞いて、ど、どうするの……」  遅れて、頬がカァッと熱くなる。  そ、そんなの答えられるわけがない。 「あのさ……」  江田君は少し身を乗り出した。  何かを探るような目をしている。 「渡辺も男だったらさ。朝起きたときとか、ち○こ、勃ったりするんだよね?」  う、うわあー……。  い、一体どうしたの、江田君……。ドストレートすぎて、コメントも思いつかないよ……。  僕は引きつった笑いを浮かべつつ、心の中で半分泣きべそをかきながら、一歩、あとずさった。 「あ、あの、江田君? ちょっと、本当、大丈夫?」 「え」  はっとする江田君。  ……よかった、我に返ってくれた。  江田君は、額に手を当てて、頭を振った。 「やっぱ部屋はやめよう。やめやめ。ルーティアのしまぱん、また今度にしていい?」 「う、うん……、別にしまぱんはそこまでこだわってないからいいよ……」  やっぱり江田君変だ……。

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