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第7話
慣れてしまうと、ちょっとぐらいの居場所のなさなんかは感じなくなる。
今までの僕はそうだ。
一日誰とも口を聞かなくたって困らないし、寂しくない。
いつもの自分の席に座って、ぼんやりクラスメートの様子を眺めたり、窓の外を眺めればいい。それで時間はとりあえずつぶせるし。
でも
今日の僕は、ダメだった。
すごく、ダメだった。
視界の端に、江田君がちらついて仕方なかった。
別に見ようと思って見ていたわけじゃない。
自然に今、視界に入ってるっていうのがいちいち気がついてしまって、それで動揺する。特別姿を探しているわけじゃない。でも、僕の視界に彼がいる。気がつくつかないとは全然関係ないところで、当たり前のように、江田君の姿が目の端っこに引っかかっている。
それがいけなかった。
僕は、見たくないのに、江田君がそれはとても楽しそうに、誰かと話しているのを何度も見る羽目になった。
楽しそうというのは、一番良くない。
楽しそうというのは、うらやましいというのを連れてくる。惨めな気持ちを連れてくる。うまくやれば自分だってあの楽しそうな輪の中に入れるのではないか?という途方もない希望を連れてくる。
惨めだった。
家に帰りたくなった。
ここにいたって、僕はずっと独りだ。
教室の外を眺めるのにも限度があるし
ぼんやりクラスメートの背中眺めてるのにも限度があるし
なんで、僕はにぎやかな教室で独りなんだ?
いてるのに、いないみたいだ。
なんで、僕はこんな存在になっちゃったんだ?
江田君は楽しそうに笑ってるのに、僕は冴えない顔で教室のどっかを眺めてる。それも意味もなく。
この差は一体なんなんだ?
そっか。
これが、負け組と勝ち組の差なんだ。
僕は椅子から立ち上がった。
休み時間で浮ついてる教室の中では、誰も僕が立ち上がったことに気づいていなかった。……江田君でさえも。
衝動的に、教室を出た。
日の光で満ちた廊下には、一人でいる人間なんかいなかった。
みんな、誰かしらと一緒にいて、誰かしらと話していた。
そんなわけはないのに、僕は自分がこの世界で一番かわいそうで、哀れな負け犬だった。そんなわけはないのに。
僕は背中で始業のチャイムを聞きながら、うそ明るい廊下を歩いた。
教室に戻る気なんかこれっぽちもなかった。
今教室に戻ったら、自分は間違いなく押しつぶされてしまうだろうから。
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