それから立花と寮に移動し、寮監へ挨拶をして、2人から寮則について説明を受ける。 門限は21時。毎日21時半には監督生により点呼が行われるので、その際には必ず自室にいること（ちなみに、点呼時にいなかった場合は何らかのペナルティがあるそうだが、その内容については詳しく知らされなかった。そして、悠もなんだか恐ろしくて聞けなかった）。 23時消灯。23時になると、監督生たちが施錠確認のために全室を回る。23時までは誰とどの部屋にいてもかまわないが、23時以降は自室から出入り禁止となる（これも、施錠後に別室へいたことがわかると、何らかのペナルティがあるらしい）。 そのほか、食事の時間に決まりはないが朝は8時、夜は22時には食堂が閉まること、部屋にはシャワー室とトイレが完備されているが共同浴場もあり、共同浴場も22時には閉まること、 長期休暇以外に土日も寮から出られるが、必ずその週の金曜正午までに外出許可申請が必要なこと、などを教わった。 「寮の食堂はお昼はやってないから、休みの日に寮にいるときは、学院の方の食堂を使ってね」 と、だいたい説明はこれくらいだけど、何か質問あるかな？と立花。悠が特にないから大丈夫と返したのにうなずいて、何かわからないことがあればいつでも聞くように言い添える。 「んで義堂の部屋だけど……お？お前1人部屋だな。確か1人のやつ余ってたはずなんだけどな」 名簿を確認しながら、寮監が首を傾げる。 あはは、そうなんですか？とあいまいに濁しながら、悠は内心苦笑していた。明らかに父の配慮だろうということがわかったからだ。 理事長の子どもだからという理由で優遇されるのは、あまり本意ではなかったが、こればっかりは悠にとってもありがたかったので黙っておいた。 「……まあいい。そういうことだから、部屋は今から立花に案内してもらえ。届いていた荷物は、監督生の誰かがすでにお前の部屋に持って行っているはずだから、確認するように。立花、食堂と共同浴場、ランドリーとか集会場とか、もろもろ他の施設の場所も教えてやっとけな」 じゃあ解散！という寮監の言葉とともに、その場はお開きとなった。 一通り立花に寮内を案内してもらったあと、夕食をともにする約束をして、立花とは別れた。 ひとまず自室に足を踏み入れると、思ったよりも広々としていた。ドアを開けてすぐ手前右側にシャワールームとトイレ、入って右側の奥に大きめのベッドが2つ（セミダブルくらいの大きさはあるんじゃないだろうか）。 それぞれのベッドの足側には、ゆったりとした収納棚が備え付けられている。左側には2人並んで座れるほどのゆったりな勉強机が2つ並び、机の間にはこれまた大きな本棚が2つある。 簡素なつくりではあったものの、ビジネスホテルのツインルームなど比ではないほどゆったりとしていて、庶民派の悠からすると、高校生には過ぎたるもののように感じる。 「さすが、金持ち学校と噂されるだけのことはあるな」 誰にいうともなくひとりごちたが、でも、と思う。勉強を頑張るにしても、部活を頑張るにしても、生徒が努力しよう、高めようと思えばいくらでもできる環境が、整えられているということだ。 ひとまずこの学院に入ることが目標だった悠にとって、今はさしたる目標も夢もないのが本音だった。ここで、夢だったこの場所で、悠は悠にしかできないこと、自分が成したいことを見つけ、それに向かって努力を積まなければ、と一人、決意を新たにするのだった。 先に送っていた荷物もある程度片がつき、約束していた通り篠宮を訪ねようと、自室を後にする。 事前に教えてもらっていた部屋をノックすると、悠を出迎えたのは知らない生徒だった。 「なんだ、見ない顔だな」 眉間にシワを寄せて眼鏡のブリッジを押し上げる様は、いかにも神経質そうな性格を表している。 「編入で今日から入寮した2年の義堂です。あのぉ、篠宮、います？」 部屋の奥を覗き込みながら悠がそう言うと、なんだ新しい世話係か、と、その生徒は扉から身を引いて、奥に一瞥をくれた。 その言い草に悠がムッとして突っかかろうとする間もなく、 「呼んでるぞ」 と一言篠宮に声をかけただけで、すぐに引っ込んでしまう。 篠宮の同室の生徒とも仲良くなれればいいな、なんて思っていた気持ちが一瞬にして吹き飛んだ。 なんとも気まずそうに出てきた篠宮を連れ、自室へと戻る。なるほど、こんなときにも1人部屋なら、気を遣わなくていいものだ。 「なんだよあの先輩、すげー感じ悪いな」 腹の虫が収まらんとばかりに不機嫌を隠さない悠に、篠宮は苦笑を向けて、常時携帯しているスマホを取り出す。 『相楽くんは、後輩だよ。一年生』 ピロンと音がして自分のスマホに目を落とし、篠宮が打ち出した文章を読んだ悠は、はあ？っとさらに声を荒げる。