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第8話

いつもあんな感じなのかと悠が尋ねると、うん、と頷いて見せる篠宮。 『僕に対してだけじゃなくて、誰に対してもあんな感じ』 『中等部の頃かららしいよ』 だからって、少なくとも一年はほとんど毎日一緒に生活するルームメイトに対して、なんの配慮もなくていいものか。根が真面目できっちりとした性分の悠は憤慨しきりだ。 後輩から不遜な態度を取られた自分よりも悠が怒っているのを見て、当の篠宮はおかしそうに肩を揺らして笑っている。 穏やかで争いごとを好まない性格の篠宮は、相楽が何か自分に危害を加えるわけではないから、と悠をなだめた。 午前中しか授業がなかったこともあり、夕食まで時間はまだたっぷりとある。 年度始めの学力検査では、1教科でも及第点に満たないものがれば来週の月曜から再試が決まっているので、不安のある者は今日から勉強を始める。 が、篠宮しかり、悠しかり、Sクラスの生徒のほとんどは学力になんら不安はないので、実にのほほんとしたものだった。 広々とした部屋で2人、ゆったりとくつろぎながら、ぽつりぽつり、どちらからともなく会話を交わす。 「今日の結果っていつわかるんだ?」 ピロンと、悠のスマホが音を立てる。 『明日の朝には3科目の合計点と、学年ごとの順位が掲示されるよ』 学力検査の前後は、実は生徒にとってだけでなく、教師にとっても正念場らしい。 本格的に学校が始まれば、大学入試に向けた勉強はもちろん、部活に学校行事にと、生徒たちがやらなければならないことはたくさんある。 だから、初回の学力検査の再試にばかり時間をとられるわけにもいかないと、教師たちには最短で生徒たちの成績を出すことが課せられている。 明日の朝までといえばほとんど半日で何十人、何百人の答案用紙を採点するわけで、強化によっては徹夜で採点にかかりきりになることもあるらしい。 この日は先生たちもぴりぴりしてるから、あんまり話しかけたりしないほうがいいんだよね、と篠宮は苦笑しながら教えてくれた。 それからは自己紹介がてら、お互いのことをいろいろと語り合った。 綾羽竜泉の高等部には普通科の他に、美術・デザイン系に特化した美術・工芸科がある。工芸、特にガラス細工に昔から興味のあった篠宮(実際に才能もあって、中学生ながらさまざまな賞を取った実績もあるらしい)は、実は美術・工芸科に進みたかったらしい。 けれども、将来を不安に思った両親から希望の進路を反対され、迷った挙句に普通化に進学することを選んだこと。それでも、将来ガラス細工をやることはあきらめておらず、今は主に工芸科の生徒が在籍する工芸部に所属して、学業と両立しながら腕を磨いていること。 キラキラとした目でそんな将来の夢や目標を語る篠宮が、自分には何のとりえもないと思えてしまう悠には、ただまぶしかった。 悠は悠で、中学は地元の公立中学に通っていたこと、3年次に兄がいて、兄にあこがれてこの学院に入りたいと思ったこと、高校1年の一年間は編入試験の準備試験に充てたこと、なんかを語って聞かせた。 どうして兄は中学から綾羽竜泉なのに悠は一度公立高校へ行ったのかは、予想していたとおり篠宮に問われたが、いくら相手が篠宮といえど、その質問に対する正確な答えを悠は言えなかった。 あいまいに言葉を濁す悠に対して、篠宮もそれ以上は問わなかった。

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