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第9話

もう1つ、悠にとっては嬉しかったことがある。 悠の名字が義堂で、3年次に兄がいると言えば、やはり篠宮にも悠が理事長の子どもであることがすぐに分かった。けれども篠宮は、それに対して何も言わなかったのだ。 理事長の子どもだから、編入試験にしろ何かと優遇されている。 篠宮ならきっとそんなふうに曲解することはないと分かっていたけれど、改めてきちんと態度に出してもらえたことが、悠にはありがたかった。 あっという間に時間は過ぎて、18時を回った頃、悠の部屋を立花が訪れた。 くつろいでいる匠の様子を見て、立花はよかった、と安堵する。 「たぶんここにいるだろうと思って、先に義堂の部屋に来たんだよ」 先輩と争いの耐えない相楽には立花も手を焼いているらしく、極力関わりたくないらしい。 立花の提案で、篠宮と3人、寮の食堂に向かうことになった。 主食・主菜・副菜と、どれも和洋中で何品か揃えてあり、順番に並んで各々が好きなものを手に取っていく形式だ。食後のデザートまで揃った豪華な食事は見た目にも鮮やかで、もちろん味も申し分なかった。 さすが金持ち学校…… と、嘆息交じりの悠のつぶやきは、幸いにも誰の耳にも届かない。 入学初日から気の合う友人と出会え、和やかな雰囲気の中で、うまい飯を囲む。一人ぼっちでいることを覚悟していた悠にとってそれはとても満たされた時間だったが、ひとつだけ気になることがあるとすれば、他の生徒たちのこちらを伺うような視線だ。 編入生など滅多に入ってこない中高一貫の閉鎖的な空間で、自分が浮いた存在なのはもちろん、悠にも分かる。気になったのは、おそらく自分と同学年、そして特に、ちらほらと見つけた同じSクラスの生徒からの視線に、明らかな敵意が感じられることだった。 編入初日の今日は一日試験のみで、悠が特に目立った行動を取ったわけでもない。 だとすると、自分が理事長の子どもだということがすでに知れてしまったのだろうか……? もしくは、と悠は思う。 編入してきたばかりの自分が、立花か篠宮、あるいは両方と一緒にいることが気に食わないのでは、と。 それでも、今日から部活が始まっている生徒もいるからかまだ食堂に人はまばらで、ただの興味本位にしろ敵意にしろ、不躾に向けられる視線はきっと、まだましな方なんだろうと、悠は冷静に考えていた。 そしておそらく、夕食にしては早い時間に連れ出されたのも立花の配慮だったに違いない。 なんにせよ、1人でいたって好奇の目にさらされるのは必須で、2人がいてくれなければきっとそれにも耐えられなかったろう。スマホを駆使し、慣れた様子で楽しげに会話を交わす2人を見ていると、なんだかこちらまでくすぐったいというか、温かい気持ちにさせられる。 食事も一段落してそれぞれ自室に戻ることになり、悠は編入初日のこの日を無事に終えた。 自室でシャワーを済ませ、明日から始まる本格的な学校生活に期待を膨らませながら、床につく。 明日が波乱の幕開けとなることも知らず、ゆったりとしたふかふかのベッドに身をゆだねながら……。

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