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第3話②

 自分より年上であるルゥの心配をする小さな少年は、置いていくのをためらっている様子だった。 「――っの、クソガキがぁ!!」  追いかけて行こうとするもう片方の男には、足を引っ掛けて転ばす事で足止めをした。が、自分までバランスを崩して一緒に倒れてしまった。 「痛っ」 「お兄ちゃん!?」 「大丈夫。気にしないで逃げろ!」  人ごみへと消えていく少年を見送って胸をなでおろす。だけど、自分自身の状況は思わしくない。少しよそ見している間に首に衝撃が走った。 「がッ。かは――っ!」  男の一人がルゥの首を片手で鷲掴みし、締め上げる様に持ち上げる。  そして、壁に押しつけた。体は宙に浮いている状態。それは重力が働いて、首を更に締め上げた。 (くる……し…ぃ)  相手は大人だ。もがいて爪を立てたとしても、首元にある手を剥がす事すらできない。はぐれの相方もルゥの元へやって来た。 「小さいのは逃したが、こいつさえ居れば十分だな」 「は……な、せ…!」 苦しさで青ざめるルゥを気味の悪い笑みで見てくる2人の男 (……くそっ!くそっ!!前の姿なら、ぶっ殺してやるのに!?)  そんな願いがかなう訳も無い。  押さえつけながら、自分の体を舐めるように見てくる相手の表情にさえ、寒気を覚える。 「ああ。俺達二人で『ちょうど良い』くらいか」  その言葉を聞いて鳥肌がたった。コウの時とは違い、今度は本当の『死』に直面した気分――いや、本当に死というものの紙一重に違いない。 (殺される……) 恐怖。そして手も足もでない自分が情けなくて、涙が出そうになる。 「へへ……泣き顔も、べっぴんじゃねーか」  気色悪い声が耳に付く。もうどうする事も出来ないのか。  奇跡なんかに頼りたくないが、この場合は何でも起こってしまえば良いのにと、目を強く瞑る。  その時―― 「おい」 「うるせーな、これから良いとこ――」 ゴッ  突然、ルゥの体が自由になった。 「ゲホッ……ゴホ…」  地面に崩れるも保ってる意識で、男達を一瞥した。  そこには、ルゥの首を絞めてた奴が白目むいて倒れている。いったい何が起こったのか……。 (な、に…?)  もう一人の男は腰を抜かして、現れた人物に青ざめた顔を向けていた。 「俺のダチに何してるんだ……あぁッ?」 「ひぃいぃぃ!」  悲痛な声をあげなら逃げようとする男、だが腰が抜けてしまったのだろう。動かない身体を引きずりながら相手に背を向ける。その行動は空しく人物に足を掴まれると、これまた鈍い音が響きわたった。  ルゥは哀れな最期に同情する。いやいや、死んではいない。気絶しているだけだが、あまりにも痛々しい姿には変わりはない。  そして全てを終わらせた人物は、座り込んでいる少年の所へとやって来て、手を伸ばした。 「大丈夫か?」  ルゥを起こしてくれたのは、コウだった。 「コウ!……さん。どうして、ここに?」  予想外な人物に助けられた。まさか自分を恨んでいるであろう元友人が助けてくれるだなんて夢にも思わない。  それに此処は裏路地だ。もう“ルガー”とつるむ事がなければ、めったに通る事もない、はず。  そんな警戒をしている姿が窺えたのだろう。コウの方は、なんとも言えない表情をして頭をかいていた。 「あー……。たまたま見かけて、助けたんだが…」 「……」 「あーそのー……この前は、すまん!?」 「え…?」  いきなり頭を下げて謝られた。  どうやら、酷い事をしたのを恨まれていると勘違いされた様だ。どっちかというと、正体がばれたんじゃないかとルゥは冷や冷やしていたのだけれども、ノエルが言った通り、コウにはまだバレてはいない様子。  それだけでも、少しだが胸をなでおろせてしまう。 「いえ、助かりました。有難う、御座います」 「別に敬語じゃなくて良いぜ。さっきだって、あの魔族達にタメ口で喧嘩吹っ掛けてたじゃねーか」  まさか、そんな会話から聞かれてたとは思わなくて、困惑した表情になる。  まだまだ敬語に馴染めないルゥは、口が悪い頃のが出てしまっていた事を思い知らされて、青ざめた。  コウや、他の奴等にばれたくないからこそシフォンの言葉を汲み取っていたのに、自分の成長の無さが恨めしく感じた。 「あ、あれは……あの人達が許せなくて、つい…」 「ふ~ん……」  まじまじと顔を見られると、どういう表情をすれば良いか困ってしまう 「やっぱり、あいつに似てるんだよな」 「――っ!」 「だけど、性格は正反対だ」 「え?」 「あいつ、あんなの見ても無視するか、横から奪うからな」  そう言われればそうかもしれない。  あの頃よりも力も何も無いただの子供ではあるが、それでも見て見ぬふりが出来なかった……小さい子が襲われる姿が、他人事(ひとごと)じゃない気がしてならなかったから―― (少しは夢魔達への罪滅ぼしに、なれば良いのにな)  エゴで自己満足でしかないと思うと、空しくなってくる。そんな顔をみたコウは、慌てて声をかけてきた。 「ど、どうした?今更怖くなったのか?」  戸惑うコウを見て、笑ってしまう。その表情はつるんでいた頃は、見たことがないものだった。 (いや。久しぶりかもな…。コウが表情を見せてくれるのってさ)  そう、最初のころ以外見たことがなかった。 「大丈夫です。それより…」 「ん?」 「この人達、どうしましょう」  ルゥは、2人のはぐれ魔族をチラッと見てコウに尋ねた。すると、タイミングよく誰かが路地裏に走ってきた。姿は大きい影と小さい影―― 「兵士さん、こっちです!」  それは、さっき助けた少年だった。どうやら警兵と出会えたようで、わざわざルゥの事心配して、ここまで連れてきてくれたみたいだ。 「これは!」 「お兄ちゃんやったの?!」  ルゥは、慌てて否定をするとコウを指名する。 「こっちのお兄さんが、ボクを助けてくれたんです」  喧嘩とも疑われる事なく渡すことが出来たのは「はぐれ」だったから  そうじゃなければ、コウも連れて行かれてたかもしれない。  何とか丸く収まった時、三人は改めて挨拶という自己紹介をする事になった。 ****** 「さっきは有難うお兄ちゃん。ぼく、マールって言います!」 「宜しくね。ボクはルゥ。で、こっちはコウって言う魔族のお兄さんだよ」  ルゥはコウも一緒に含めて紹介した。  マールは、ルゥより年下の夢魔だった。無垢な感じが可愛らしい男の子。だけど不思議そうな表情を浮かべて見ていた。 「どうかした?」 「ううん、何だかさっき助けてくれた時より、雰囲気が違うなーって……あ、言葉がちがうんだ!」  さっきやっと流した事を蒸し返されてしまう。 「うぅ、それコウさんにも言われたよ。…ボク怒ると、口悪くなるみたい」  とりあえず、これで切り抜けられるだろうか。そんな恥ずかしそうに言うルゥの頭をポンポンと撫でるのはコウだった。  もっと精進しなくては シフォンにばれたら叱られてしまう。それだけじゃなく、これが切っ掛けでばれないとも限らないわけで…… 「あ、いけない。行くところあるから、ボク――」  ふと自分が何しようとしてたか思い出して、二人に別れを告げようとした。 「何処行くの?」 「危なっかしいから、俺も付いてくぞ?」  歩くルゥの後ろを付いてくる二人。  今の所は特に困る事はないかな。と、考えた末一緒に向かう事にした。  ほんの少し、警戒をしていたルゥだったが、いつの間にか2人の間に入って楽しくお話しながら目的の場所へ歩いていた。 「マールは、あの伯爵の使役なんだな」  関心をするように言うのはコウ 「うん。今日は、きゅうかもらったから、街に遊びに来てたんだけど……」  どうやらマールは、資産家の使役夢魔らしい。  その資産家は、ルゥもよく知っていた。父ルシファーの相談役の大臣でもありとても良い人だ。  街の人々からの人望もあつい上、やさぐれていたルゥにもとても親身になってくれる。ルゥが心から信頼するというのがあるのなら、こう言う人物を指すだろう。  そんなこんなで、向かうべき場所に到着  少し遠回りだったけど、なんとかたどり着く事ができた。 「あ、ぼくが引き取られるまで居た場所だよ」 「え!そうなの!?」 ビックリしたルゥは聞き返してしまう 「うん。逃げ出した所を主様に見つかって、家へ連れて行ってくれたの」 まるで思い出のように語るマール。  それはきっと、この店と交渉して引き取ってもらった。と言う事だろう。でもコウは、この店の裏側を知ってるんだろうか…… 「何だこの店、そんな怪しい場所なのか?見た目、普通の店なのにな…」  これが普通の反応である。  見た目が普通の店なのだ、黙ってれば人身売買をしてるように見えない作りをしているのは、間違いない。コウの言葉を聞いて、気が付いたマールはあっとした顔になる。 (仕方ない……)  ルゥも、コウに口止めするように迫った。 「コウさん、あんまり他言しちゃダメですから、ね?」  そんなのがバレたらマールの主の伯爵の立場も危うくなってしまう。ルゥの場合、素性が謎な“魔法使い”だから困る事はないかもしれないけど――  コウは、二人の困った顔を見て、ため息を漏らした。 「……何もしない。どうせ俺が言っても警兵も信じやしないさ」  小さい子達は、嬉しそうに手を繋いでキャッキゃしはじめる。どちらかというと、マールがルゥに飛びつくような感じで喜んでいるが、相手もマールの笑顔を見て安心をした。  気を取り直して店の中へ入る為にドアを押すと、鈴が チリンッ と音を立てて出迎えた。綺麗とは言えない薄暗い店の中、その奥のカウンターにいつもどおりの男が座っていた。  音には気にも留めてない様子、誰かがカウンターに来るのを感じ取ると男は、顔を向ける。 「いらっしゃー……おや、君は。それに――」 「マダラさん。こんにちは」  男の名前はマダラと言うらしい 「こ、こんにちは」  目が合ったルゥも慌てて挨拶をする 「こんちわ~、どうだい?伯爵様は優しいかい?」 「はい!」 「うんうん、こっちも懐が潤ったし、いたせりつくせりってね~♪」  そんな会話をした後、ルゥの方に顔を向けてくる。  どきっとしたが用事があった為、慌ててカゴから封筒を取り出してカウンターの奥のマダラに差し出した。 「こ、これ…シフォン様から……」  受け取った男は、1つの紙を取り出した。  手紙だろうか……それを黙々と読み始めた。何か面白い事でも書いてあるのか、口元が段々と緩むように綻んできているのが、ルゥから見ても分かった。 「へぇ、なるほどなぁ……」  まだふくらみが残る黒い封筒を机の引き出しに入れると俺を見る、そして二人に聞こえるように話しかけてきた。 「どうだい?姉さん厳しいけど、良い人だろ?」 「え?」 「姉さんが君を気に入って引き取った時は、ちょっと手放すの悩んだんだけどねぇ」  突然話を振られたので、最初は何の話をしてるのか分からなかった。  詳しく説明すると、マダラが言うには、どうやらルゥはシフォンへ売られていった。と言う“設定”になっているらしい。  ルゥの方は話の流れが飲み込めない。だが、取り敢えず話に合わせておく事にした。 「は、はい」 「……お前もここ出だったのか」  コウの言葉に苦笑してしまう。  その間にマダラの方は、何かを書いていたらしく、カウンターから書いた手紙をルゥへ手渡した。 「そんじゃ、姉さんに宜しく!まいどってね♪」  受け取って相手の表情を見ると、嬉しそうな顔が目に映った

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