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第3話 番外①
――下町
そこはルシファーが統一する街の1つ。
今日もルゥは、買い物をしにやって来ていた。そろそろ夢魔としても“自分”としても生活に余裕が出てきた気がする今日この頃。その途次、見慣れた人物に声をかけられた。
「お兄ちゃーん」
「ま、マール?」
声に振り向くと同時に丁度二人は抱き合う。
どちらかと言うと、マールの方から抱きついている体制ではあるが、ルゥの方もそれに答えてあげる。
「久しぶり。最近会えなかったもんな」
「うん♪ ぼくお兄ちゃんに会えて幸せ」
「ボクも。会えて嬉しいよ」
また二人の世界が出来ておりますが、この子は数日前、ルゥが助けた夢魔の少年。
今の彼よりも5、6歳と年下の男の子で、今日はたまたま近くに居たらしくルゥを見つけて追いかけてきた様子――
せっかくだ、何処かお話できる場所を探そうと二人でお話しながら歩きだす。ルゥが場所探しにキョロキョロしながら歩いていると、マールが声をかけた。
「あのね、お兄ちゃん」
「うん?」
「聞きたい事があるの……」
ちょうどいい段差の階段も発見し、そこにルゥは腰を下ろしてマールにおいでと、ポンポンと合図をする。相手も座った所で問いに答えた。
「ボクが答えられる事なら」
自分より小さな少年。いったいどんな質問が返ってくるのか、そんな事を考えて微笑ましく思っていたルゥ、だったが――
「お兄ちゃんは、もう仕事 してるの?」
久しぶりに下町で出会った男の子――その可愛い子の口から、とんでもない言葉を聞いた気がして咽てしまう。
「え……っち……?」
聞き間違えかもしれない、聞き返してみるがあっさりと返事が返ってきた。
「うん!仕事 !」
さっきより少し大きい声に慌てたルゥは、マールの口元に手を当てて周りの視線を気にした。
「んむぐッ……!」
「い、いきなりそんな事……。大きな声で言わない!!」
顔を真赤にするルゥは、マールを叱る。
「ぷはぁ……なんで?」
「え!それは――」
「ぼく達の役目なんでしょ?」
それを言われてしまうと言葉に詰まる。確かに夢魔の仕事は“人”の生命 を集めて来る事だ。でも、まさか自分より小さい子からそんな話を聞くと誰が思えるだろうか……
マールは少し悲しそうに言葉を続けた。
「ぼく、まだ小さいから…仕事とかまだだけど、お兄ちゃんどうかなって思って」
伯爵からはもう少し大きくなってからと、言われているらしい。だからまだ、エナジーを渡した事もない。
家に置いてもらってるからこそ、早くお礼したいのだという――何て、健気なのだろう。健気だが…一応聞いてみる。
「ま、マールは、意味分かって言ってる……のかな?」
聞くこっちまでドキドキであったが、マールは首を横に振った。どうやら意味までは理解してないようだ。それを聞いて少し安心――
「お兄ちゃんは、分かるの?」
「――っ!?」
どう答えれば良いのであろう……。
「わ、分かるよ!ただ、マールにはまだ早いかなぁ。もうちょっと大きくなってから、ね?」
声が少し裏返ったが、なんとか伝わったようだ。
「お兄ちゃんは、もうしてるんだよね……良いな――」
そこは羨ましがる所なのだろうか。それとも、これが夢魔なのだろうか。
ルゥは今の姿の前は、魔族側だった。だからだろうか気持ちが理解できないし、それどころか夢魔としての仕事をしてるのかも怪しい所だ。
シフォンの使役をし始めてもう1ヶ月以上は経過してるが、ノエルやコウとの出来事、その他は魔法使いのちょっとしたお仕置き意外、特に“そんな関係”はない。
お仕置きは、ルゥにとっては恥ずかしい事だけど――
(俺……。夢魔の事、本当に知らないんだな)
ふとそう思った時、少しは夢魔の事を勉強しようかと考えて立ち上がったルゥ。それを見たマールも同じく立ち上がった。
「どうしたの?」
「ええと、ちょっとね」
まさか「夢魔の勉強しにいく!」なんて恥ずかしくて言えない――だから誤魔化して、その場を後にしようと思った。
「よ、用事が」
「じゃぁ、ぼくも着いていく!」
「だ、大丈夫だから」
「……」
泣きそうな表情だ。
困らせるつもりはなかったルゥは居た堪れない気持ちになると、もう隠しているのもどうでもよくなった気がする。
――二人がやって来た場所は薄暗く胡散臭い店
「へ?……夢魔の事かい?」
その店の店主はキョトンとした表情でそこに現れた小さな夢魔達を交互に見た。
マダラが経営する骨董品屋―― どうしてここへ来たかというと、最初はノエルを探していたのだが、見つける事が出来ず。居るとしたら自分が暮らす樹海の奥になってしまう。
そんな場所にマールを連れて行く事が出来ない上、今は道を覚えているルゥだが何か(迷子など)あったら自分が許せない。
だから次に頼れるのは、マールを知るこの男だった。
(ノエルいないし、コウは――論外ッ)
「お兄ちゃん。ぼくの為に勉強、手伝ってくれるんだね♪」
「っえ!? ま、まぁね!」
なんだか、良い方向に誤解してくれたみたいで少しホッとする。
だけど、こんな胡散臭そうな男に教えてもらえるものなのだろうか……。本当は夢魔に教えてもらうのが一番なんだが、今は頼れる相手が居ない。
覚悟を決めたルゥは男を見据えた。
その真剣な顔を見た男は、面倒臭そうに頭をかきながら言う。
「突然だなぁ。まぁ良いけどさ……」
夢魔がそんな事を質問してくる事を疑う素振りも無く説明をしてくれそうだ。
そう言う所も怪しいが、今のルゥには、とても有り難い。
「夢魔はエナジーを蓄え、それを魔族に渡す。2人は一緒で一対――て、これは知ってるか……」
「じゃ、じゃぁ。人間界行かない奴等はどうなるの?」
疑問はそこだった。
マールはまだ小さい。だから伯爵は大丈夫と彼に促したのだろう――だったら自分達は、どうやって力 を蓄えるのだろうか。
ノエルの方はルゥと出会うまで蓄えを行えなかったはず……それとも、あんな事をパートナー以外の魔族 にしてると言うのか。
この間のキスを思い返し少し頬が染まる。
その顔を見てニヤニヤするマダラと目が合い顔を背けた。
「あーぁ、何考えてるんだかなぁ……。まぁ、その場合も心配ないだろうさ。一日半ほど休めば、体調は良くなるからね」
体調とエナジーがどう関係するのか分からない。
そんな顔をする2匹の夢魔がそこに居た。
「ありゃ、分かりづらいか……そうだなぁ―― 分かりやすく言うと『毎日、相方 とエッチ事が出来るか出来ないか』って、あた――」
「うわわあああ!!」
それを聞いたルゥは慌ててマールの耳をふさいだ。
突然何て事を言うのか、分かりやすい所かストレートに言ってきた事に驚いた。
「な、なななんて事をマールの前で言いやがんだッ!!」
自分 を作っているどころではなかった。と、言ってもだいぶ前から少し崩れてはいたが――
「いっちぃ~……耳元近くで叫ばないでくれるかい?お前さん等 が分からないって顔すっから態々」
それを言われるとぐぅの音もでないが、だからと言って普通、直球をぶつけて来るだろうか。
飄々とする相手を睨んでいるルゥの手元で、何かが動いた。ふと見るとずっと耳をふさがれたままのマールが目に止まり、慌てて手を離すが心なしか怒っている気がした。
「もぅ、お兄ちゃん!ボクも勉強したいのに聞こえない!」
「ご、ごめんね…そんな、つもりじゃなかったんだけど……」
慌てて弁解をする。これは、とうぶんは機嫌が悪そうだ。
そんな二人のやり取りをニヤニヤしながら見る男は何だかとても楽しそうで、さっきの面倒臭そうな態度が嘘のように、良い表情が見受けられる。
「お前さんだって、姉さんとするんだろ?」
「……え?」
「惚けるなって~。あの人の事だから人間界に行かせないだろうから2~3日に一回くらい――だろ?」
その言葉に一瞬固まるが、理解をすると顔が赤くなってゆく。
されるとしてもお仕置きくらいだ、エッチな事なんて――そんな風に考えをめぐらせていたが、最初にルゥとなった日の事を思い出して、更に顔が爆発させた。
「や、やめ……ッ。マールの前だろ!?」
抗議しても赤い顔に説得力のかけらもない…
その顔を見てマダラが、これまた楽しそうにケタケタと大笑いをした。
「あっはっは♪ 君、夢魔なのに純粋~……ある意味レアだわ」
夢魔をバカにされ……いや、自分をバカにされて腹が立って来る。
(来るんじゃなかった)
これ以上居たら、からかわれるだけじゃ済まないかもしれない。
そう思ったルゥは、マールを連れて外へ行こうとした、その時――
「マダラさん!ぼく、主様に何かしてあげたいの。どうすればいい?」
マールが質問をしてしまった。
「伯爵様にかい?」
マールは頷くと、さっき話した事をもう一度マダラに説明をする。そしてマダラが、ルゥの事を一瞥した表情は――
(ふぅん……。だから夢魔の勉強、ね)
何かを考えたのか、口元がほころぶ。
嫌な予感がする。慌ててマールの手を掴んで連れ出そうとした。
「マール。ここから出よう、もう一人知ってる人いるか――」
「1つだけ! 方法があるかなぁ」
――遅かった。
その言葉にマールが食いついてしまった。
「ぼくも出来る?!」
目を輝かせるマール、それに対してマダラは胡散臭いほどの笑みで言う
「出来るじゃん……1つだけ」
それは……。
「ご奉仕、さ」
そう言うマダラはカウンターから降りてきて、ルゥ達の前にやってきた。座ってる時は身長が小さく感じてたが、いざ近くに来て見ると、それなりに大きな男。
「ご奉仕って?」
何て無垢なのであろう。マールは、その言葉の意味を聞き返した。
「相手に尽くすって所ですね。でも、夢魔の場合は――」
その言葉の途中で近くにいたルゥの腕を引っ張った。その反動で相手の前に倒れるよう抱き寄せられた…そして続いた残りの言葉は――
「ご主人様に気持ちよくなってもらうってあたりかな?」
そう、2人に……いや、ルゥに語りかけるように言うのであった。
男の手がルゥのあごの下に伸びる。そして、眼光は…これからが本番と言う光を放っていた――
(少し……いや、かなりヤバイ状態かもッ)
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