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第4話①

 朝、目を覚ましたルゥの体はフラフラでしかたがなかった。  布団から這い出す姿は服を一枚も着ていなかったが、風邪をひかない様に毛布が掛かっていたのは、まだ優しさだろうか――  2日から3日に1回ほどだが、最近は魔族か夢魔かも分からないシフォンのエナジーの食事にされていた(※番外参照)  夢魔がコレを生業にしていると考えると、ルゥは気が可笑しくなりそうで怖くなる。  身体は火照り、快楽が下から上へと全体へ回って来る感覚は自分の中で何かが震えて負けそうになる。すると、涙が溢れて止まらなくなってしまう。 「恥ずかしいな……ほんと……」  前は泣き虫じゃなかった。  抱かれる側――性行為に身を投じる時は、自然とそうなってしまうのだ。 (嫌な事をされている訳でもない、はず)  布団を頭からかぶると考えを捨てようと悶え始める。  “シフォンに嫌な事をされている訳でもない”なんて言葉が脳内を過る時点で、相手の行為を認めてしまってる自分が、許せない。  昨日も意識が飛んでしまったが、何となく彼の手がルゥの髪を撫でていたであろう感覚が肌に残っていた。  それをふと思い出して、自分の頭に手を置き余韻に浸る―― 「……おれの、バカ野郎ッ……」  拳をギュッと握り締めると、ガバッと布団から飛び出した。  朝は色々とやる事があるんだ。だが、その前にシフォンに許可を貰っているシャワーを浴びる為、浴室へ向かうのだった。    どうせお風呂に入るからと、体にタオルだけを巻いてやってきたものの、一人になれる空間が存在してしまうと昨日の事を思い出し、身体の火照りが再熱する。  自分の体の変化に戸惑いつつ、なってしまったモノはしょうがない。それを何とかしようと、声を抑えながら自慰する為に手を伸ばした。 「……ッんん」  シャワーの音で掻き消えてると思いながらも、声を最低限抑えながら壁を背に手を動かしていると、夢魔の耳に声が舞い込んできた。 「ルゥ~?」 「ふぁい!!」  驚いたルゥは裏返った声で返事をした。  慌てて浴室から顔を出してみれば、そこにはノエルがおり、人をマジマジ見てくる相手から隠れる様にタオルで自身の顔を強く拭いた。  だが、まるで見ていたのか、言葉が耳元で囁かれる。 「エッチな事、してたんでしょ?」 「ち、ちが――!」 「だって、声聞こえてたもの」  見られていた訳ではなかったが、どうやら聞こえていたようだ。  出来るだけ赤くなった顔を見せないように、そらしながら服を手にとった。 「な、何もないですから……」 「ふふ、まぁ良いけどね」  それ以上追求はされなかったのは有り難い。  着替え終わると、ルゥの手を引いて居間へ一緒に移動した。 「ルゥ上がりましたよ~……て、何読んでるんですか?」  シフォンは、椅子に座って何かを読んでいる様だった。 「魔界の新聞ですよ。最近次元が緩いらしいですね…」  新聞を読む姿を見た事がなかったルゥ。  それどころか、そんな読み物がある事もしらなかった彼は、不思議そうにオウム返しをして聞いた。 「じげん?」 「めったにありませんが。何処からか、舞い込んでくるって事です」  珍しく教えてくれるシフォンの言葉に、コクコクと頷いて話を聞いていると、玄関からノックの音が響いた。  主人に行ってくるように促されてドアを開けに行ってみれば、やって来たのはコウだった。   「よーっす!ノエルいるかー」  彼もたまに遊びに来るのだが、大体はノエルがいる時だ。 「はい。中にいますよ」  居間まで案内して、二人に伝える。 「コウさんでした」 「ノエル、やっぱりここかよ!」  もう来たのか――そう言いたそうなノエルは、ふてくされた顔でコウに文句を言う。 「もう、コウのバカぁ」 「お前なぁ…最近、入り浸りじゃねぇか」  犬も食わないと良く言ったものだが、本当に仲の良い2人。 「だって、ルゥが好きなんだもん!」 「俺という者がありながらか!!」 「うーん…。それはそれ、これはこれ……だよ♪」 「大体な――ッ!」  そんな会話をしている彼等めがけて何かが飛んでくると、それは微かな音を立てて、壁に突き刺さった。  何が刺さったのか目を向けてみれば、銀のトレイが現代アートの様にそこにあった。 「……毎回毎回。今度騒いたら、刺殺しますよ」 「いやいやいや!!すでに殺しに掛かってるだろ!」  怒りが収まらないシフォンの攻撃がまた飛んでこようとした時。  ノエルが辺りを見渡して、不思議そうに訪ねた。 「シフォン様。ルゥは?」 「とっくに買い出しに行きましたよ」  この展開を知ってか知らずか、既に日課となる買い物へと出かけて行ったらしい。それを知ったからには、彼も追わずにはいられない。  考える仕草をした後、顔をあげると相方へ目配せをして嬉しそうに伝える。 「俺も追いかけるから、後の事は任せたよ。コウ♪」  怒らせた魔法使いの相手をするくらいなら、あの少年の元へ行くほうが楽しいに決まっている。善は急げ、言い訳と相方を残して一目散に逃げていくのだった。 「お、おぉいぃ!?」  それを慌ててコウも追いかけていくのだった。 ++++ 「今日の分は、これで良いかな」  下町へ下りてくる前に、シフォンへ出かける事を伝え、あの二人へも言ったのだが、話を聞いていたであろうか。  早めに買い物が終わったルゥは、満足そうに籠をぶら下げて森がある方向へと歩き出す。が、その帰り道に見慣れないものを発見した。  男の魔族。いや、夢魔。悪魔でもない気がする。見た目は、自分達と同じ姿なんだが、少し違和感がある気がする。 (……なんだ?)  何かが足りない。まるで、羽がない妖精の様な――  迷子にでもなっているのか、あたりを見渡すその人物を遠巻きにジッと眺めるルゥ。下町で迷う魔族などいるはずがないのに、まるで田舎者みたいな感じがする。  すると、その男の足元に何かが転がっていくのが見えるた。 「あれ?……あ!」  ルゥが買った果物が籠から転がってしまったようだ。慌てて取りにいく。  転がった先には、あの人物。それを拾った男は、落ちてきた先を見据えてきた。 「……あ、有難う、御座います」  慌てて近づくルゥだったが、なぜか驚いた表情でジッと見られている。  “珍しいモノを見た”そう言いたそうな感じだ。 (な、なんだろう……)  その不思議そうな顔を見上げて首をかしげていると、男に声をかけられた。 「悪いんだけど、触らせてもらって良い?」 「はい?」  “それ”とはいったい何の事か、理解に頭を巡らせていると伸ばされた手はルゥの頭の上を通り過ぎ、ある一定の場所に届いた。 「ぅ、ひゃん!!」  少年は叫んだ。  どちからというと、セクハラされた時のような悲鳴だったが、どうやら腰から出てる尻尾を軽く触られたようだ。  夢魔にとって尻尾は性感帯の一部の為、身体にくすぐられた様な感覚が襲い掛かる。あまり慣れてない刺激に力なく地面へあひる座りするルゥは、ビックリしたあまりに荷物も全部下へ落としてしまった。 「ぅぅ……ッ」  相手も指で撫でるように触っただけだったので、まさか声があがるとは思わなかったようだ。 「ご、ごめん。出来心ッ!」  その後、すぐ男は不思議な事を質問してきた。 「ええと、ここは地球のどこら辺かな?尻尾が生えた人を俺しらなくて、ごめんよ」 「……?」  ちきゅう?聞いた事がない。何の事だろうかと困惑してるルゥ。  取り敢えず混乱する頭を整理する為に事情でも聞いてみようかと思った矢先、目の前を風が切った。そして勢いよく目の前の男が宙を浮いた。  いや、浮いたんじゃない、誰かに持ち上げられたみたいだ。 「おいテメェ……俺の弟分に何してくれたんだ?嗚呼ッ?!」 「大丈夫?」  それはコウだった。そして一緒に居たのはノエル。  2人はちょうど尻尾を触れる所を目撃して飛んできたに違いない。 「こ、コウさん。ノエルさん」 「いきなり尻尾を触るとか、デリカシーなさすぎだよね」 「理由によっては、ぶん殴る!?」  もう掴みかかってる――とか思ってる場合ではなかった。ルゥは二人を慌てて止めに入る。  聞きたい事もあったと言うのに喧嘩をしてる場合ではない。 「あ、あああの!この人、ちきゅうとか言ってたんですけど、何処ですか?!」  話題に持っていこうと振った言葉に、反応はすぐ帰ってきた。 「それって……」  まさかと言う表情をする二人は顔を見合わせる。  本当に驚いていた様で、コウも持ち上げていた手を緩めた。 「どうか、したの?」  不安そうなルゥの顔を察したノエルが、答える。 「……ひとまず、家に帰ろうか」  いいね?と言われ、こくりと頷く。  落としてしまった荷物をノエルと一緒に拾うと家路へ。男も何が何だか分からないと言う顔をしつつ、コウに押されながら付いて来た。  家に辿り着くと、シフォンを部屋の中を探し回る。ノエル達が顔色を変える相手って事は、何か大事ではないのか……そう思ったからだ。 「し、シフォン様!シフォンさまぁ!?」 「ルゥ、返ってきたら――?」  呆れ顔のシフォンが顔を出したかと思うと、普段のメンバーとは違うを見て真剣な表情になる。 「“それは”何ですか?」  シフォンに聞かれてノエルが答えた。 「ルゥが見つけたんだ。とりあえず警兵に突き出すのも考えたんだけど……」 「なんで、突き出さなかったんです?」 「そんなのルゥが困ってたからに、決まってるじゃないですか」  その言葉に、シフォンを小さく溜息を付く。 「本当に貴方達は、ルゥに甘いですね。取り敢えず居間へ行きましょう。話は、それからです」  ルゥは、客人の為とお茶の用意に台所へ――と言うのを口実に“大人の話がある”そんな感じに遠くへと追いやられていた。  この姿じゃなかったら『俺にも聞かせろ!』、てくらい言えたのだろうが、今はシフォンの使役。しぶしぶと居間を後にする。 ***  居間へ通された人物は、体を強張らせて座っている。  状況を理解できないと言うのもあるのだろう。切羽詰る空気―― 最初は誰が口を開く事もなく沈黙が続いていた。コウなんて始まらない会話に、貧乏ゆすりをしているくらいだ。  そして最初に口を開いたはシフォン。 「お名前は?」  突然、話しかけられた人物は、驚きつつも質問に答えた。 「え、あっと……俺は鴉間肇(からすまとし)って言います」  そのままシフォンの淡々とした質問は続く。 「肇、貴方は地球。と言う場所から来たのですね?」 「ええ――ッハ?」 「私達やさっきの子を見て不思議に思うことは?」 「そ、そりゃぁ……」  もしも初めて目撃したのなら誰だって不思議に思うのではないだろうか。耳が尖がってエルフのような容姿、なのに悪魔が生やす様な尻尾を付けていた。  だが、どう言葉にして良いのか分からない肇は、言葉に詰まる。 ダンッ  もどかしい質問に対し、痺れをきらせたコウがテーブルを叩き怒鳴りちらす 「どうやって来た!知りたいのはそれだけだ!!」 「へ、え?は?」 「ちょ、ちょっと落ち着きなよ」  宥めるノエル。これ以上相手が混乱する前にとシフォンが説明をし始める事にした。 「コウが騒ぎを起こしそうなので単刀直入に言います。魔界へ落ちてきたんです。幸いなのは本当の“狭間”に落ちなかった事でしょうね」  この男――肇は、次元の狭間になんらかの形で落ちてしまった。  今朝、その話を知ったばかりだと言うのに予想通りな(予想外かもしれないが)事が起こってしまうと失笑してしまいそうだ。 「……まったく、じゃなくてでも落ちてくれば良かったのですがね」  その方が、幾分かマシではある。  肇は次元になんらかの干渉をし、そこの空間に足先でも付けたのだろう。  そして、やって来た場所が下町だったが幸運か、見た目も魔族と似ていた為、警兵に怪しまれることなくうろついていられた。  そこに買い物最中のルゥと知り合い、今に至ったのであろう。

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