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第4話③
夕食の支度を終わらせて食事を運ぶ。肇はと言うと料理を手伝って一緒に運ぶのを手伝ってくれた。まさか料理が得意とは思っていなかったので、ルゥはとても助かってしまう。
気が付くと前から友達だったのではないのかと思うほど仲良くなっている2人。
もしかしたら今、肇が置かれている状況が自分と少し似てる――そう思う所がある為、親近感が湧いているのかもしれない。
食卓の一室までやってきた2人、そこではシフォンが待っていた。
それはそうだ。ここは彼の家、夕食の準備と言われて待ってないわけがない。シフォンは2人の姿を確認すると、その一人の肇に声をかけた。
「食べたらいかがですか? 働いてはもらいますが、一応は“客人”なのですから」
「は、はぁ……」
「準備は大丈夫ですよ、肇さんは座ってください」
笑顔でルゥにそう言われてしまうと、断る気持ちが逸れてしまう。
仕方なく椅子を引いて、そこへ座る肇…おどおどして座る姿に少し苦笑してしまう。
初めての人がいる食事はちょっと新鮮だ。ちょっと照れくさい気持ちになってしまうルゥ。
いつもはシフォンと二人。たまに、ノエルやコウがいる時があるが、大体が自分のミスで家へ上げた場合がほとんどだ。
そして肇と目が合うと、二人で はにかんだ笑顔を見せ合った。
「可愛いでしょ、私のルゥ」
「えっ」
私の――その言葉にドキッとしたのか、シフォンをマジマジとみる肇
「ここに、一時的でも住むからには絶対に手を出さない事をお勧めします。貴方は“人間”なのですから」
二人の会話をあまり聞いていなかった少年が、ふと肇を見る。
少し赤くなっているのはシフォンの言葉に何かを感じとったのだろうか――でも、ルゥ本人はまったく分からなかった。
「何の、話ですか?」
「二人だけの話です。ほら、準備をしてしまいましょう」
言葉を流されてしまう。
聞いて良いか分からいルゥは気になるが、質問したい気持ちを今は飲み込むことにした。
人間だから手を出してはならない。
「……」
――どう言う意味があるのだろうか。ましてや相手は可愛いとしても“男”である。
そう言う興味も趣味も無い、まさか自分が少年へ欲情でもするとでも言いたいのだろうか、そこまで理性を捨てるつもりはない。と肇は自分にそう問いて言い聞かせている。
小さな少年をジッと目で追うが、特にそういう欲情を覚える事がなかった。
(……あの人に、からかわれたのか?)
この世界が『魔界』と言う場所ならば、人間が珍しいのかもしれない。
それならば、からかわれる事もありうるだろう。
考えれば考えるほど不愉快になってくるが、とりあえず今は用意した食事(主に肇が作った)を食べることにした。
****
次の日
目を覚ますといつもの日常とはいかないが、彼はそれなりに自分が置かれている状況を少しずつ楽しんでいた。
外へは出るなと言われているので飛び出す事はないにしても、退屈な肇はルゥがしてる洗濯物を畳むのを申し出る。
「凄い助かります」
「いやいや、これくらい」
今日は晴天。
洗濯物も良い感じに乾き気分よく畳むルゥ…なんだかもうルガーだった頃の面影も残らないほど――
「でも何か、シーツが多いね」
些細な肇の言葉だった。その言葉に顔をいっきに赤らめた。
「ルゥさん?!」
「……な、なんでも」
シーツが多いのは当たり前だ。性的な事をされて汚れないわけが無い。
カピ付いたシーツはルゥですら気持ちが悪いし、思い出して恥じた気持ちになってしまう。だからこれは自分の意思で毎日洗っていた。
だけどまさか、こんな事で思い出して恥ずかしくなるなんて、自分でも思いもよらなかったのだ。
顔を赤らめるなど昔の自分を重ねてしまうと今じゃありえない。だが、今は“立場”を考えてしまうと羞恥心がぬぐえないのだ。
「大丈夫?熱……かな」
「ち、ちがう……やッ」
耳まで赤らめ、おでこへ触る肇の手を退けようと、抵抗する。こんな事で顔を赤らめたのを見られたくない…そう思って拒んだつもりだ――だが、ルゥの動きや表情を見た肇まで顔を赤らめてしまった。
その想いが何だか分からない、さっきまで何ともなかった感情を肇の中で支配してゆく。
「ルゥ」
口があたる寸前だった。
名前を呼ばれて反応すると、そこにはシフォンが居た。
「シ、シフォン……様?」
「あなたに頼みたい物があります」
手に持っているのはビニールの袋。その中には、楕円の形をした瓶が入っていた。
ガラスで透けてる形をしているが、中は煙が充満してる。そして蓋はきつく閉められている為、完全なる密封になっていた。
「これを、マダラの所へ持って行って下さい」
「マダラ、さんですか?」
マダラはルゥもちょっとは(事情的に)世話になっている骨董品屋だ、裏は何とも言えない仕事をしている人だが憎めない性格をしている。
とても大切な何かなのだろう――肇とシフォンに挨拶をすると、すぐ出かけて行ってしまった。
「……」
「昨日も言いました。手を出さないようにと……そんなに飢えてるんです?」
「そ、そんなつもりじゃ!それにあの子は男の子だろ!!」
それを聞いてシフォンは少し考えて、何かを納得したように言う。
「あぁ、そうでした。あなたの『世界』では、こういうのを“ホモ”とか言うんでしたっけ?それとも、ゲイだったか――あなた、素質あるって事じゃありません?」
笑顔でそんな事を言われると、カチンときてしまう。
「な――っ!」
「でも、ダメです……。『魔界 』には手を出してはなりません。 まぁ、どうしてもとおっしゃるなら、私が相手してあげても宜しいんですよ?」
「いぃッ!」
その言葉に困惑する肇。そりゃ、相手のシフォンは男でも中性的な姿の持ち主。
だからって、そんなつもりがある訳がない――
「冗談です。その洗濯物、ちゃんと畳んどいてくださいね」
シフォンもその気はなかったようで、そう言い残して部屋の奥へと居なくなってしまった。
(……だけど、俺もどうして。あの子にキスなんてしようと考えたんだ?)
少しさっきの事を思い返してみる。
透き通る白い肌に細い首筋、そして白い肌が真っ赤に火照った顔、それを見たらつい――何かに引き寄せられるように。
――肇は突然、考えてた思考を投げ捨てた。
「いやいやいやいや!!あの子は『男の子』それに『子ども』!俺のばかやろおおおお!!」
やまびこが返ってくるかのような大声を樹海へ向かって叫びを放つのだった。
***
ルゥはさっきの事を思い出していた。
シフォンとは違う 勿論ノエルとも違う。この火照る気持ち、身体――好きとかそういうのじゃないと言うのは、自分の本能が教えてくれた。
ただ……自分の本能が『欲しい』と叫んだそんな気がしたのだ。
「マダラさん、これシフォン様から」
「お!今日もまいど♪ いいね~これでもっと懐が潤いますな」
今居る場所は、マダラが経営する店。シフォンに頼まれた物を持ってきた所だった。
その瓶の中身を見て嬉しそうに呟くマダラにルゥは質問する。
「マダラさん、ソレって何?」
「これかい?知らないんじゃ、姉さん教えてないんだろ?」
教えるべきか悩む、前に余計な事をして酷い目にあった事もあったのもあるが…だが、それは自業自得なような気もする。
「まぁ、良いか。これは商品さ」
「商品?」
それなのに教えてしまう所からして、反省と言うのを知らないのだろうか。
「たまに姉さんが連れてくるんだ。お前さん、姉さんの噂は知ってるかい?」
「噂って…もしかして」
“噂”それは、もう一度確認になるが シフォンには噂が付きまとっている。
彼へ会いにいったものは、誰一人として帰ってこない…別の言い方では『食べられた』のではないかと言われるくらいだ。
あの樹海だ、迷ったと言う事も考えられるけど―― そこから考えられる商品と言ったら表向きではない商売の方になるのだろう。
「そのもしかしてだよ。見た目はただの瓶(マダラが持てる片手サイズ)の中の煙だけど、中身はあるよって事」
嬉しそうに説明されてしまう。これは、聞いたとは言わない方が良いだろうと思ったルゥ。この形(瓶)をしていると、誰にもばれないで此処に持ってこれる。
それを気に入ったマダラは、その方法で持ってくるシフォンを姉さんと慕っているのだろう。
――ふと身体が調子が悪化したのを感じたルゥ。
「あの……ボク、帰りま……す」
途中だが話している内容も少ししか頭に入ってこなくなってきた。
家からこの店まで来る間に、火照った身体の熱が収まってくれると思っていたのだが、なかなか収まらないでいた。それ所か熱が下がるのではなく上がってゆく一方だ。
「ルゥ……顔真赤だけど、大丈夫かい?」
マダラが心配そうに声をかける。
「え……う、うん。仕事…あるんで」
このままでは、倒れかねない…さっさと家へ帰ろうと、店を後にして出て行く事にした。
チリリン……リン…
「ありゃぁ、もしかして……」
身体が熱い…
熱くてたまらない…
(なんだこれ。体の火照りが消えない――)
まるで風邪でもこじらせた様な身体の重みに身体の火照り…むず痒い気持ちが治まらない。
そのまま立ち止まってしまったら、動けなくなってしまいそうだ。
(が……我慢、帰るまで)
そう思って前を向いた。
でも、自分の体は正直で足に力が入らなくなっていた。
(う、嘘……そんな――!)
このままでは倒れてしまう。通りの端を歩いていたとしても、自分の体を支えていられそうな所が見当たらない。
出来れば、体を支えられそうな木や壁がある場所までは、進んで歩きたいと思っている。
そう考えて無理やり動かない足に力を入れようとした時、ガクンッと力が抜けるように倒れこんだ。
(動けな……ッ)
そのまま意識が持っていかれそうになった時
「やっぱり、ルゥじゃねぇか」
体を起こして声をかけてくれたのは、コウだった。
うなだれるルゥは顔を見上げてみるも、声があまり出ない。
「コ……ぅ……」
「なんだ、どうした?」
切羽詰った気持ちで、耳打ちをする
「体が……熱…うご……ない」
「……買い物、終わったのか?」
普段見かける表情のコウとは違う真剣な顔に少しドキッとする…
聞かれた言葉にルゥは小さく頷いた。
「分かった。このまま俺が連れ帰ってやる。そしたら良くなるさ」
その言葉を信じコウに体を寄りかけた。
持ち上げられる体は横抱きをしてもらい、早足に歩き出す。ルゥの方は意識が飛びそうになっていた…何が起こったのか、自分の体なのに分からない…。ただ抱かれて揺れる相手の体温が心地が良い…それだけだ
「待ってろ――今、お前のご主人様を連れてきてやるよ」
家に到着して降ろされた場所は、裏のドアから入った使われてない小さな部屋の中。
ご主人とは、シフォンの事だろう。彼なら、この原因が分かるはず。
コウ達 魔界に住むモノは風邪などはひかない、だけど何かで発作を起こすことは良くある――薬などに詳しい“魔法使い”。それを期待して呼んで来てくれるのをジッと待つことにした。
「ん?あれは……」
部屋の中を探し回るコウ、その前を歩いてきたのは肇だった。
「おい!魔法使いは何処だッ」
「え?あ、あの人なら……ルゥさんに頼むの忘れたとかで、出かけていったけど――」
なんてタイミングだ。まさかのすれ違いにコウは舌打ちをした。
森の中で出会う事が無かった所からして、少し前に下町へ足を運んだのだろうか…
状況を飲み込めない人物を一人残して男は、彼の元へと慌てて戻る。
「な、なんだったんだ……」
****
ルゥはコウが帰ってくるのを待っていた
力なく目を瞑っていたら…体が浮いた。誰かに抱きかかえられるように―――重い目蓋を開いて見てみると、そこに居たのはコウだった。
「コ……ゥ…?」
シフォンは見当たらない…それでも試していない事が1つだけ、コウにはあった。方法が正しいとも限らないが、辛そうなルゥを放っておけない…だからこそ、その方法を試すべく部屋へ戻ってきた。
「悪いな、荒療治でいくぞ」
そう言うと、ソッとルゥの体に触れるのだった。
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