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「夜刀比古…」
「香久良は奥向きで大事にされてきた子だから知らないだろうね。
今の護矢比古は、外に出したらいけないんだ」
「どうして…」
「俺も分からないよ。
何で悪いまじないが彼の中に入り込んだかなんて」
「………」
穏やかな口調は、いつもの夜刀比古。
でも。
なにか違和感があるような気がして、香久良は背後の護矢比古を庇うように格子に背中を預ける。
「香久良、床をよく見てごらん。
彼の周りになにか…ない?」
「?」
自分の影でよく見えない。
体を傾けて目を凝らすと、護矢比古の周りの床に何か書かれているような気がする。
「………?」
「あれはね、彼の中に入った呪いを抑える役目をしてる。
前に言ったことが無かったかな…?
俺の母親は、戦働きだけじゃなくて、悪いまじないを封じたり消したりする家の出なんだ。
もちろん、俺も出来るんだよ…」
「そう…なの?」
「ああ。
随分深く入り込んでしまったから、ちょっとややこしいけどね。
大丈夫。彼の中の悪いものも消してあげられる」
「………本当に?
出来るの!?お願い、護矢比古の中の悪いものを早く!」
「わかってるよ。ちゃあんと消してあげられる。
でも、深いから時間がかかるんだ。わかるよね」
「………っ、………」
夜刀比古が手を翳すと、護矢比古の苦しげな呼吸が少し和らいだ。
「詳しい話は離れた所でしようか」
「………え、ええ…」
促されて扉の方へ向かう。
大事な息子が呪いに侵食されているなどと知れたら、あの母親はどうなるのだろう。
何事も知られぬ内に収めてしまわなければ。
香久良は唇をキュッと結んだ。
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