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◆◇◆◇◆
夜明け前に護矢比古の様子を見て、香久良は深く息をつく。
濃い呪いに侵食されてはいるものの、ここ数日、症状の進みが止まっているように思う。
『でも…、呪いが入り込んだなんて、護矢比古のお母さんには知られちゃいけない…。
やっと体調が安定して来たのに、ここで悲しい思いをさせたら…きっと…』
全て解決して、何事も無かったことにしてやりたい。
あの日、夜刀比古から聞かされたのだ。
性質の悪い呪いを受けて解けなかった場合、封じのまじないをかけた上で処刑されてしまうと。
封じのまじないは強力で、処刑と同時に体も魂魄も消え失せてしまうという…。
『そんなのは嫌。
護矢比古の全部が無くなってしまったら、わたしも生きてはいられない…』
考えるだけで胸が苦しくなる。
『夜刀比古は呪いを解ける血筋だと言ってるけど、そう度々来れる訳じゃない。
わたしに出来ることはないのかしら…』
薬草に関わる書物に紛れ込ませて持ち出したのは、呪いを解くためのものだ。
『あの黒い瘴気の渦が見えたということは、わたしも呪いの元を見れるということ…。
夜刀比古が来れないなら、わたしに出来ることをしなければ…。
護矢比古を助けたい。
一緒に里の外へは行けないかもしれないけど、無事に社から出してあげたい…。
わたしでも出来ることは…?
薬草を使って何か出来ないのかしら…』
片っ端から文献を漁る。
薬草の中には病を治すだけではなく、性質の悪いものが嫌う種類があった。
それを使えないのだろうか…。
『なにか…使えないかしら…。
護矢比古から、悪いものだけを引っ張り出す方法が…』
引っ張り出した呪いを固めて、どこかに封じられないのか。
床に書かれた封じのまじないは護矢比古にとってとても苦しいもののようだし、軽減させれば少しは…。
『…魔よけになりそうな薬草で削って…』
朝と晩の食事。
汁椀に混ぜてみてはどうなのだろうか。
『できるかも…!』
幼い頃からここで暮らしてる分、厨房に入っても香久良は怪しまれない。
粉末は流石にバレてしまうかもしれないから、煮出して混ぜてはどうだろうか…。
『体に害がなくて、毒素だけを出すような何か…』
薬草の効能を確認しながら、香久良は策を練った。
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