472 / 668
・
夜刀比古に呪い抜きを引き継いで、香久良は奥向きに戻った。
「わたしがしっかりしていなければ…!」
護矢比古に入り込んだのが悪いまじないだとしても、綺麗に抜いて処理してしまえばいいのだ。
他の誰かにも、里の長にも知られてしまう前に。
そうすれば、護矢比古も母親も里を離れて出て行くこともできる。
『一緒に出ていけるかどうかは分からない。
出来ないだろうけれど…。
でも…。わたしに出来る最大限の事をしてあげたい』
獣腹の子供が里の外へ出た事が無いようだと、香久良はなんとなく気づいたのだ。
それは、母の態度であったり、社の大人の言動や夜刀比古の言葉から導き出した答えなのだが。
もちろん、護矢比古と共にと言ったわけではない。
効き目の良い薬草が、林の向こうや山にないだろうかと謎かけをしただけだ。
社で育てている薬草だけでなく、もっと良いものがあるなら探してみたい、と。
『あからさまではないけど、社から出るだけでもまずいみたいな顔だったわ…。
もしかしたら…』
禁を破って出たとしたら、その先は…。
背中を冷たいものが走る。
『………それを考えている暇はないわ。
いまは、護矢比古から呪いを抜き取る事だけを考えなきゃ』
脳裏を過った疑問を振り払い、香久良は夕方の薬湯を煮出し始める。
苦くならないよう、コトコトと辛抱強く。
『護矢比古から呪いを抜くだけじゃ駄目。
お母さんの体調を戻して、万全の態勢にしてなきゃ…!』
季節の変わり目の不調(風邪)に効くものや、熱冷まし、腹痛など、それぞれに効果のある薬草の包みも作っていく。
いつか旅立って行く日に持たせてやれるよう、一つ一つ心を込めて。
ともだちにシェアしよう!