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夜刀比古に呪い抜きを引き継いで、香久良は奥向きに戻った。 「わたしがしっかりしていなければ…!」 護矢比古に入り込んだのが悪いまじないだとしても、綺麗に抜いて処理してしまえばいいのだ。 他の誰かにも、里の長にも知られてしまう前に。 そうすれば、護矢比古も母親も里を離れて出て行くこともできる。 『一緒に出ていけるかどうかは分からない。 出来ないだろうけれど…。 でも…。わたしに出来る最大限の事をしてあげたい』 獣腹の子供が里の外へ出た事が無いようだと、香久良はなんとなく気づいたのだ。 それは、母の態度であったり、社の大人の言動や夜刀比古の言葉から導き出した答えなのだが。 もちろん、護矢比古と共にと言ったわけではない。 効き目の良い薬草が、林の向こうや山にないだろうかと謎かけをしただけだ。 社で育てている薬草だけでなく、もっと良いものがあるなら探してみたい、と。 『あからさまではないけど、社から出るだけでもまずいみたいな顔だったわ…。 もしかしたら…』 禁を破って出たとしたら、その先は…。 背中を冷たいものが走る。 『………それを考えている暇はないわ。 いまは、護矢比古から呪いを抜き取る事だけを考えなきゃ』 脳裏を過った疑問を振り払い、香久良は夕方の薬湯を煮出し始める。 苦くならないよう、コトコトと辛抱強く。 『護矢比古から呪いを抜くだけじゃ駄目。 お母さんの体調を戻して、万全の態勢にしてなきゃ…!』 季節の変わり目の不調(風邪)に効くものや、熱冷まし、腹痛など、それぞれに効果のある薬草の包みも作っていく。 いつか旅立って行く日に持たせてやれるよう、一つ一つ心を込めて。

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