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その頃、奥の牢の護矢比古と夜刀比古は、格子を挟んで対峙していた。
「純粋で無垢なだけに、思いの強さも凄いな…。
そう思わないかい?」
「………」
「ああ。術が効いてる間は喋れないんだったね」
夜刀比古が手をかざすと、途端に息苦しさがやわらぐ。
「俺が疎ましいなら、さっさと殺せばいいだろう?
なぜ、こんな回りくどいことを…!?」
「こんな筈じゃなかったんだよ。
たちの悪い呪いにかかったのを見て諦めるだろうと思ったのにな」
「………」
「術で呪いを薄めることが出来ない代わりに薬草を使うなんて、さすがに予想もしていなかったよ」
香久良が幼い頃から培ったものに、夜刀比古は驚きを隠せないでいる。
思った以上に呪いは薄れ、こそぎ取られていた。
「頼む。
俺のことは殺しても構わない。
だから、香久良と俺の母親だけは逃がしてやってくれ…!」
「それは出来ないな。
大事な夫の心を奪った女を、俺の母が許す訳がないだろう?」
「………っ、だから…っ、俺は跡取りにはならないと…っ!」
「母や俺が父から受ける筈だったものを、お前ら親子が横から掠め取って行ったんだ。
俺が受け継ぐべきものをお前が受け継いで生まれたせいで、夜毎日毎に悶え苦しむ母を見て育った俺の気持ちは分からないだろう?
次代の長に相応しくない息子しか産めなかったと散々責め立てられて、夫である親父の心も離れて、どれだけ苦しんだか…!
なのに、香久良まで…!
許せる訳がないだろ。許す必要もない。
掠め取られたものは、全部取り返さなきゃ、なぁ…?」
「………有力な家の娘と許嫁になってたんじゃないのか?」
「あれは、俺が欲しい相手じゃない。
似たような顔をしてても、中身は全然違う。
俺がほしいのは一人だけだ。
香久良以外は誰もいらない」
「………っ」
薄暗がりの中で見る夜刀比古の瞳に浮かぶのは、憎悪や怨嗟、狂気だ。
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