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パチン。
指が鳴ると、控えていた影が2つ、牢内に入って護矢比古の上半身を起こした。
影は人ならざるものだった。
簡単に護矢比古を押さえつけ、顔を上向かせ顎を固定する。
「な…っ!」
「薄まったんなら、濃くしたらいいんだよ。
前のは俺の怨嗟だけで足りなかったみたいだし、今度は母の慟哭も混ぜた。
これだけ濃いなら、そう簡単には薄まらない。
一滴残らず飲み干せよ、護矢比古」
クスクス笑い、懐に入れていた器を持つ。
「や、やめ…っ、…っ、っ…っ、」
「抗うんなら、香久良に危害が及ぶぞ」
「………っ、…ぐっ…」
抵抗を封じ、喉の奥へ黒くてドロドロとした液状のものを流し込み、全部流し込んだところで夜刀比古は言葉封じのまじないをかける。
「がっ、かは…っ、………ぐっ、あ…」
胃の中で液状のものが熱を持つ。
液体のはずなのに、ぐりぐりと這いまわり、血の流れへ混ざろうとする。
「ぐっ、あ………っ、っ、……っ、ふ…」
痛い。
それよりも、熱い。
体が内部から炙られているような気がする。
「いたいか?
ああ…、熱くもあるか。
とくと味わうといい…。俺の絶望と怨嗟、母さんの深い嘆きと恨みの結晶だからな」
「………っ」
押さえつけていた影が揺らぐ。
「ついでにそれも受けとれ」
「がはぁ…っ!」
揺らいだ影が溶けて、護矢比古の中へ滑り込んで行った。
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