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呪術そのものに縁がなく、里長の家とも出来る限り関わらないようにしてきた。 畑を耕し、狩りをして生きてきた護矢比古。 人の裏の顔など、このような事がなければ気づきもしなかったかもしれない。 「か…ぐら…」 偶然出会い、少しずつ思いを重ねてきた。 愛しい。 愛しいひと。 黒い瘴気が幾重にも巻き付いて意識がブツリブツリと途切れても、護矢比古が一番に想うのは香久良ただひとり。 呪い抜きをするようになって、かなり思い詰めているはずだ。 少しずつ、香久良の表情には憔悴の色が浮かんでいる。 『頼む…気づいてくれ…、俺のことはいいから、どうか、逃げてくれ…!』 香久良がどうして夜刀比古と関わりを持ったのかは知らない。 垣間見る感じでは、自分に対するような話し方とも違う。 恋仲ではなく、幼なじみに近いような印象だ。 『香久良は幼なじみと思っていても、夜刀比古にとっては違ったってことか…』 家族の情を知らずに育ち、恋愛というものもよく理解していない少女。 里の外へ出て家族三人で暮らしていきながら、少しずつ教えてやれたらと思っていた。 「………」 だが。 どうやら伝える前に、自分の意識も命も持ちそうにない。 香久良が必死で呪いを抜いても、それ以上に夜刀比古が補充してしまうのだ。 伝えたくても、呪いや夜刀比古に関することは口封じの呪いをかけられていて叶わない。 林の向こうに住む母と共に、里の外へ逃がしてやりたかった。 「香久良…」 どうか、夜刀比古の闇に気づいて逃げ延びてほしい。 自分と母には憎悪と怨嗟を抱いているだろうが、香久良には違う筈。 想うあまりに狼藉を働かないとは限らない。 それが一番怖いところだ。 「早く逃げろ…たのむ…」 奇しくも、お互いがお互いを想い、里の外へ逃げ延びてほしいと願っていたのだ…。

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