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「そうだよ、護矢比古。 香久良はとうに俺のもの」 「………お前は…っ!なんてことを…! 香久良はっ、なにも知らないんだぞ…!!」 社のなかで徹底的に情報を遮断されて育った香久良は知らないのだ。 どのようにして子供が生まれて来るかも。 今、自分の体の中で何が起きているのかも。 「知らなくても構わないよ。 お前が消えたら、俺がちゃぁんと教えてやれる」 「………!」 「こんな古びた掟としがらみにがんじがらめの里の中で、香久良を守り抜いてやれるのは俺だけだ。 お前なんかじゃない」 「なら、どうして香久良を…!」 「お前が居るからだよ、護矢比古。 本当にお前は邪魔だ。 こんなに呪いが侵食してるのに意識を保っているなんて。 陽の光の中からずっと俺を見下して来て、まだ足りないのか! とっとと呪いに染まってくれてたら、こんな手間は…!」 常人であればとうに呪いに染まって、夜刀比古の命じるままになる筈なのに。 護矢比古は侵食されていても自分を保っている。 どこまでも…。 …なんて強い。 だからこそ、邪魔になる。 「もうまだるっこしい真似はやめだ。 あの女もろともさっさと始末して、香久良を迎え入れる準備をする」 「………母さんまで…!?」 「当たり前だ。 親子まとめて始末してやる」 「………!やめろ!母さんは見逃してくれ!」 「断る」 「夜刀比古!」 「煩い!」 重々に口封じの呪いを施し、夜刀比古は牢を後にする。 最悪の事態をどうやって回避すれば良いのか、護矢比古はなすすべが無かった。

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