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夜刀比古が香久良に…。
護矢比古にとって、それは受け入れがたい現実であった。
『………できるなら、少しずつ家族の成り立ちを教えた上で、香久良自身の気持ちを優先してやりたかった…』
腹立たしく、悔しく…。
いや、腸が煮えくり返りそうな気持ちだ。
『俺に、もっと力があったら…』
香久良を完全に手に入れるために、夜刀比古が護矢比古と母親を抹殺しようと固く決めたのだろう。
奥牢は更に頑丈に固められている。
先月の月の触りが来てないということは、宿して間もない筈。
無茶な行程になれば、香久良自身にも触りかねない。
『俺が亡きあと一緒に暮らしていく上で、障害になるなら…。
それとも、ギリギリまで母さんの助命を嘆願して、二人で支えあいながら無事に産むか…』
社の者達がどう扱うかも分からないのに、無責任なことはできない。
『この呪いも、いつまでおとなしくしているか…。
俺の意識を塗り潰しでもしたら、完全に救出は出来なくなる。
どんな形で処刑する気なのかは分からないが、引き出される時が最大の好機…。
香久良を社の外に出して、母さんと一緒に連れていかなければ』
ここいら周辺の里とは、秘密裏に交流を重ねてはいる。
母と香久良を受け入れても良いとの返答も得ていた。
『交渉で一番感触の良かった里へは、険しい山を二つ越えなければいけない…』
どれだけ出来るか分からないが、確実に逃がしてやらねば…。
護矢比古は、息を一つついた。
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