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「あなたも薄々分かって来ているのではないですか?
香久良さんは、獣腹の片割れなのだと」
「………」
ああ、やはり。
「獣腹の子供は、一人しか残してはいけない。
それがこの里の掟です」
「………っ」
「片割れを生かすには、一つしか方法がありません。
この社の奥向きに隠し、ここで一生を過ごすこと」
「…………決して出られない、と?」
「そうですね。
方法があるとすれば、里の長か戦働きで貢献している家の子が片割れで、その子が亡くなってしまった場合くらいでしょうか…」
「…………決して、危害を加えたり、乗っ取りをしないと証だてすれば、出ていくことは出来るのではないのですか?」
「………出来なくはないでしょうね」
「…っ、………っ!」
方法があるかもしれない!
護矢比古の母の鼓動が、一気に跳ね上がる。
「でも、難しいと思いますよ」
「な、ぜ…!?」
「証だてをして出ていった子供が裏切らない保証がないからですよ。
今までにも、何度かありましたから」
「そ、んな…」
「里の外へ出たものの、生まれた家の財産を諦め切れずに片割れを殺害しようとした事があったのです。
そのうちの何人かは、処刑されていますし」
「………香久良ちゃんは、そんなことをしないわ」
「でしょうね。
あの子は慈悲深い。
顔も知らない里の者を助けたくて、日々薬草を育てて来ました。
私もあの子は物騒な真似をしないと信じています」
「なんとか、なりませんか…?」
「………難しいと思いますよ。
気づいているのでしょう?普通の状態ではないと。
あなたもあの子も強行軍には耐えきれない」
「………っ」
分かっている。
わかりすぎるくらいに。
でも、言い切られて胸が軋む。
「無理に話を通して出たとして、何らかの騒動に巻き込まれない保証もない。
私も何度か見ています。
失った幸せを取り戻そうとして処刑された者を。
遺骸は弔いすらしてもらえず、里の辻に魔除けとして埋められているのですよ」
「………っ!」
ギシッ!
一層胸が軋んだ。
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