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戸板に乗せられて運ばれる。
「なんか、おっかねえな」
「おっかねえよ」
「呪いにまみれてる奴を運ぶなんてさ」
「畑をくれるって言われてるけど、本当に貰えるんだか」
「しっ。滅多なこと言うな。何処で聞かれてるか分かんねえだろ」
「巻き添え食うなんてごめんだし」
出来るなら関わりたくない。
本音としてはそうなのだろう。
命じたのが誰かは分からないが、一度手にした田畑はずっとその家のものになる。
開墾するにも里の長の許しが要るし、取り掛かるにしても労力は並大抵のものではない。
くれてやると言われれば、断りにくい
『まだだ。
建物の中で騒ぎを起こしたら、元も子もない。
あともう少し…』
聞きなれた声ということは、里の者。
運んでいる最中に護矢比古が逃走すれば、自ずと処罰も重くなる。
陽動をかけるにしても、好機を読み違えれば意味がない。
『……何モ待タナクテモ、今、事ヲ起コセバイイデハナイカ…』
『………っ』
背筋に冷たいものが走るような声は、周りの者には聞こえていないらしい。
『今更躊躇ッテドウスル。
我二心ヲ明ケ渡セバ、一気二物事ヲ片付ケテヤルゾ』
ゲラゲラと笑い、護矢比古を唆そうとする。
『………夜刀比古の道具になるなんて願い下げだ』
『ホンノ少シ明ケ渡セバ、香久良モ母親モ、アノ女モ助ケテヤレルゾ』
『…………』
体内の呪いが鎌首をもたげて暴れ回ろうとしている。
それを押さえつけながら、護矢比古は辛抱強くチャンスを待ち続けた。
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