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里のあちこちで上がる煙は、すべて土が巻き上げられてのもの。 火の手は一切上げていない。 『三ツ程分身ヲ飛バシタ。 今ノ内ニ余計ナ荷物ヲ降ロセ』 「ああ」 夜刀比古が出ないようにした声も、呪いは解放した。 元の声とはかけ離れた、しわがれた声だけれど。 「あんたの家はどこだ」 「………長の家の…隣の…」 「わかった。 裏口の傍に降ろすから、騒ぎが遠くなったら直ぐに家に逃げ込んで着替えろ。 わかったな?」 「………どうして…? どうして助けてくれるの?」 里中でもうもうと上がる煙の中を縫って駆け抜けながら、護矢比古は香久夜へ告げる。 「自分の身代わりに半身を殺されるのは、きっと香久良が望まないだろうからな…」 「半身…?」 裏口の葦簾の陰に香久夜を降ろし、被せていた布で藁の束をくるむ。 「それは香久良の服だから、着替えたら竈にくべて燃やせ。 あらぬ疑いをかけられないようにな」 「半身のことは母親に聞けばわかる。じゃあな」 「え…っ?」 葦簾の隙間から覗いた時には、もう人影はなかった。

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