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人の形をした紙の護符。 「さ、息を吹き掛けなさい」 「はいっ」 咲良がふぅと息を吹き掛けると、チリチリと微かな音が響く。 その音とともに、護符の輪郭がぶれた。 「………………?」 「もう一度、息を吹き掛けなさい」 「はいっ」 …………ふう……っ。 護符に新たな変化が起きた。 「宮司さま、これは……っ」 「しー。 まだまだ変化しますからね。 貴方の振りをするにはまだ数日かかるでしょうから、宮のもの達には内緒ですよ?」 巫女服の懐に護符を差し込むと、宮司はパチンとウインクをしてみせる。 「はい」 「では、策を講じたご褒美を頂きましょうね」 「………………?」 「ばけつぷりんと、おやすみぷりんです」 「あ……、はいっ!」 宮の奥に設(しつら)えたキッチンで、咲良は腕に縒りをかけてバケツプリンとお休みプリンを作った。 「ふふふ……。至福の味ですねぇ……」 大皿にあけたばけつぷりんは、きれいな形でプルプル揺れて宮司の心も胃袋も大いに満たしたのは言うまでもない。 「で、こちらは別腹です」 しっかり、おやすみぷりんも味わう。 贄送りの儀までの間、咲良は毎日プリンを作り続けた。 その日その日に宮司が食す分だけでなく、たくさんのプリンを。 それらは一つ一つ時止めの呪いが掛けられ、絶対に劣化しないようにパッキングされて万年氷の氷室に入れられた。 「ちゃんと毎日ご飯も食べていただかなくてはね」 時止めの呪いを掛けた常備菜やおかずも、しっかり別の氷室に詰め込むのも忘れない。 なにしろ、この宮の者たちは料理が不得意な者ばかりだったから。

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