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不意に、泉の中心から波紋が広がった。 「彼方(あちら)が応えたようですね。 贄姫、鬼呼びの風を起こしてください」 「はい」 胸の前で重ねた両手をそうっと顔の前に持っていくと、咲良は静かに息を吸う。 ふう……っ。 ひらひらと舞っていた桜の花びらが掌に降りる。 それを掠めるようにそうっと吹いた息が触れた。 チリチリと音を立て、一枚が二枚に、二枚が四枚に増える。 咲良の息から生じた一陣の風が、泉の上を巡るにつれ花びらはどんどん増えていく。 ふう……っ。 もう一度息を吹き掛けると、風に巻かれた膨大な桜の花びらが渦を巻きながら球体を形成し始めた。 「お呼びください」 「はい」 袿の下で面をつけ、咲良はゆっくり言葉を紡ぐ。 「対の鬼さま、いらせられませ」 しゃあんッ!! しゃあんッ!! 神職達が鳴らす鈴の音に応えるように、空気がビリビリと音を立てた。

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