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「立て」
「はい」
その場に立つと、鬼は手を差し出した。
「ここへ来い」
「………………はい……?」
鬼が居るのは泉の中心の真上だ。
咲良は困惑しつつも鬼の言葉を待つ。
「我はこの磁場から動く事を許されておらぬ故、泉の上を歩いて我の元へ来い。
お前が約定通りに対の者ならば出来る」
「…………場に、縛られているのですか?
世の理(ことわり)を超える存在のあなたが……?」
「そこの宮司が張った磁場がきついのだ。
お前からは見えぬかも知れぬがな……」
「…………?」
宮司に視線を移すと、ゆるりと頷く。
「生まれて直ぐから宝のようにお守りして参りましたのでね。
無用な狼藉を働くとは思いませぬが、場を制御しておくのは当然のことですし」
「…………宮司さま、対の鬼さまは狼藉を働くような方ではありませぬ。
巻物に書かれてるような、恐ろしい感じがいたしませぬもの」
差し出されたままの手に誘われるように、咲良は一歩踏み出す。
板張りの廊下から、泉の上へと。
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