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強い風に煽られ、紗の袿がバタバタと音を立てる。
「今少しの我慢だ。
頼むから、飛ばされずにしがみついていろよ」
「はっ、はい……っ」
先程、鬼が両親に告げた言葉が頭の中でまわっている。
『ご尊父、ご母堂に礼を申し上げる。掌中の珠の如く慈しんだであろう子を、我の対として貰いうけた。慈しむ事を、固く誓おう』と。
幼いころから聞かされていた話と違う。
対として生まれた子は、鬼が何千年も生きる為の贄……要は滋養の食べものという扱いの筈だ。
なにかが違う。
『どうしよう……。
咲耶はとても恐がりだし、お父様もお母様もわたくしも、てっきり贄姫は生け贄の役割だと思っていたし……。
もしも対が花嫁の意味だったとしたら……。
男子のわたくしが、花嫁になんてなれるのでしょうか……。
どうしましょう……。
花嫁になれない事に怒り狂って、お父様やお母様や、咲耶を八つ裂きになさらなければよいけれど……』
咲良は、どうしたらよいのか分からぬままで、鬼にしがみついていた。
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