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石庭を抜け、泉の前に行ってみる。
「え……っ?」
咲良は驚愕した。
見事に咲き誇っていた枝垂れ桜がすべて散って、花びらが落ちた泉は薄い桜色に染まっていたのだ。
「泉に全ての花びらが落ちているのは、姫乞いが滞りなく済んだ証。
あちらの泉も同じ筈だよ」
「…………そんな……。
お待ちくださいませ、彼方と繋いでみます」
「さくら?」
泉に落ちた花びらを一枚掌に取り、水分を拭き取ってからふぅと息をかける。
チリチリと音を立てた花びらは、宙に舞った。
ふう……っ。
ふたたび息をかけると一枚の花びらが数百枚に増え、一陣の風になる。
「対の世界と結びくださりませ」
水面を覆う花びらが泉の縁へ退き、清らかな水が現れた。
「宮司さま……お応えくださいませ」
しゃあん!
空の星が一気に降り注いだかのような清らかな音色。
その音とともに、咲良が作った風が散らされた。
「………………えっ!?」
「弾かれたみたいだねぇ……」
「そんな……っ」
何度試しても、水鏡は風を弾き続けた。
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