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時雨が帰ったあと、夕飯の準備をしている間に咲良は船を漕ぎ出した。
板張りの床に綺麗に正座をした状態で。
「器用な子だねぇ……。守弥、今日はもう寝かせておやり」
くうくうと眠る咲良に視線を落とし、守弥は一つ息をつく。
この建物……桜の宮には、そもそも客間はない。
境界を監視しているばあ様の部屋と、潔斎の部屋と守弥の部屋しかない。
しかも、妻乞いの儀式のあとは実家に行く予定だったから、余分な寝具も無いのだ。
「…………何処に寝かせるんだ」
「ん?守弥の部屋しかないんじゃないかねぇ」
「………………」
「居間は囲炉裏があるから危なくて寝かせられないよ。
花嫁として連れてきた子だから、守弥の部屋で問題ないだろう?
それに、そんな小さな子に狼藉しようとも思わないだろうし、風邪を引かせる前に布団に入れておやり」
「……………………」
反論をきっちり封じられて、守弥は自分の部屋に向かった。
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