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「…………」
さて、どうしたものか。
大柄な守弥が使うベッドは大きいものだが、咲良の巫女服は結構かさばる。
落ちないように奥に寝かせるとしても、この服を下敷きにしたり踏みつけてしまいそうだ。
窓の外を見れば、既に居間もばあ様の部屋も明かりが消えている。
寝てしまったのか風呂に入っているのかはわからないが、小さめの浴衣はばあ様の部屋にしかない。
借りにいけなくなった守弥は、ひとつ息をついた。
「…………………狼藉をはたらく訳じゃないからな…」
すっかり寝入った咲良が聞いている訳はないが、一応断りを入れて抱き直す。
紐をほどいて巫女服を脱がしていくと、裏地に小さな桜の花の刺繍を見つけた。
ひと針ひと針丁寧に施された花の刺繍と文字。
「桜じゃなくて、咲良だったのか」
風に散らされる儚い花よりも、咲いて良しと書く名で良かったと漠然とだが感じた。
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