55 / 668

「…………」 さて、どうしたものか。 大柄な守弥が使うベッドは大きいものだが、咲良の巫女服は結構かさばる。 落ちないように奥に寝かせるとしても、この服を下敷きにしたり踏みつけてしまいそうだ。 窓の外を見れば、既に居間もばあ様の部屋も明かりが消えている。 寝てしまったのか風呂に入っているのかはわからないが、小さめの浴衣はばあ様の部屋にしかない。 借りにいけなくなった守弥は、ひとつ息をついた。 「…………………狼藉をはたらく訳じゃないからな…」 すっかり寝入った咲良が聞いている訳はないが、一応断りを入れて抱き直す。 紐をほどいて巫女服を脱がしていくと、裏地に小さな桜の花の刺繍を見つけた。 ひと針ひと針丁寧に施された花の刺繍と文字。 「桜じゃなくて、咲良だったのか」 風に散らされる儚い花よりも、咲いて良しと書く名で良かったと漠然とだが感じた。

ともだちにシェアしよう!