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強い風に煽られ、次々と泉めがけて落ちていく。 その付喪神達を包むように、一陣の風が吹いた。 やんわりと包み込む風は、微かに甘い香りを運んできた。 毎日毎日心を込めて作っていた甘い甘いぷりんの香り。 「咲良ぁ……っ」 「咲良ああっ!」 片時も離れようとしなかった付喪神達を守るように包んだ風は、ゆるりとほどけて安全な場所に彼らを降ろした。 小さな赤子だった時から一緒にいた。 喃語を話したと喜び、よろけながらも歩いた時は喝采をした。 宮司に内緒で流れ星を探したり、宮の屋根に上がって麓の花火を見たこともあった。 穏やかで誰よりも芯が強い子供と過ごした日々は、長いときを越えてきた彼らには短いもの。 だが、今までの中で一番濃密で心踊る日々だったのだ。 「さくら……、咲良ぁ……っ」 「いくなよぅ……、考え直してくれよぅ……」 はらはら舞う花びらが泉に落ちていく。 二つの世界を繋いだ道が、完全に閉じてしまった。

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